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コラム

偏見をもたらす一部報道が
精神医療の進歩を妨げる恐れも

2年半ほど前に発売開始となった統合失調症治療薬の、安全性について鋭く言及する記事が、某全国紙のネット版記事として公開された。記事タイトルは、『抗精神病薬ゼプリオン使用後の死者80人超に』。新聞記事(ネット版も含め)のタイトルは、記事内容を徹底的に要約するのが“不文律”なので、あれこれ補足説明を入れられないのは致し方ない。ただ、投薬との因果関係が不明である薬について、死者数のみを前面に打ち出すのは、読者の偏見や患者及び家族の恐怖心をいたずらに煽るだけではないだろうか。そうした偏見をもたらす報道が、結果的に精神医療の進歩を妨げることが危惧される。

想定の範囲内である
薬剤使用者の突然死リスク

 患者や家族にとって、『警告文』とも受け取れるゼプリオンの記事が掲載されたのは、誰もが名前を知っているであろう全国紙が運営する医療系サイト。2013年秋の市販開始以降、半年間の死亡報告が32人に上り、うち16人が突然死であったこと、厚労省が14年春に安全性速報(ブルーレター)の発出を指示したこと、販売元のヤンセンファーマが医療関係者への注意喚起と添付文書の改訂を行ったものの、本年2月までの死亡者が85人となったことなどを報じ、「手をこまねいていると、今年中に(死者数が)100人を超える恐れがある」「患者の命を軽視した傍観は許されない」と締めくくっている。

 全て裏付けのある数字であることは間違いない。「死亡との因果関係がはっきりしない」点も明記されている。が、個人レベルのブログならまだしも、メジャーな新聞社の医療記事ならば、もう少し周辺状況についても報じるべきだったのではないだろうか。例えば、医薬品医療機器総合機構(PMDA)による副作用報告書から抜粋された今回の死者数報告は、主治医が薬剤との因果関係を認めようが認めまいが、薬剤使用者の死亡は全て報告対象となる「有害事象基準」に基づくものだが、これまで報告されてきた大半の薬剤の死者数は、主治医が薬剤との因果関係を認めた場合のみ対象となる「副作用基準」によるもの。したがって、死亡数のみ他の薬剤と比較して『死亡報告が多い』と言い切ってしまうのは、早計ではないだろうか。

 厚労省がブルーレター発出を指示した段階で、同薬剤の使用者は1万0900人(一部推定)で、うち21例の死亡が報告されている。ただ、そもそも突然死のリスクは、抗精神病薬の非服用者ですら年間平均1万人中14.3人で、同薬服用者は、用量によってリスクが増加することが判っている。非定型中等量の服用で2.13倍、非定型大量となると突然死リスクは2.86倍にも上昇し、突然死リスクは年間1万人中40.8人にも及ぶ。だとすると、半年間で1万0900人中21人の死者数は、想定可能なリスクという見方ができなくはない。

処方シェア最多の
抗精神病薬まで危険なのか!?

 1回の注射で、効果が約1ヵ月間持続するゼプリオン。その成分は内服のインヴェガ錠と同じで、最初の第2世代抗精神病薬であるリスパダールが体内で代謝されると、インヴェガの有効成分であるパリペリドンに変化する。したがって、ゼプリオンの成分に問題があって死亡者が多いということになれば、インヴェガはもちろん、国内における処方シェアトップであるリスパダールまでが危険ということで、これは日本の精神科医療にとっての大問題である。

 PMDAの報告では、死亡者はゼプリオン使用開始後約6週までに集中しているので、確かに薬剤との関連を強く感じさせるが、反面、6週以降に死亡が生じるリスクが低くなるのであれば、驚くべき数字でもない可能性が出てくる。むしろ、ほとんどの死亡例が他剤との併用患者であることの方を問題視すべきではないだろうか。当然ながら、ゼプリオン販売前には治験による安全性確認が為されているわけだが、治験は100%単剤使用で実施される。多剤併用が少ない海外では、同薬剤が先行して使用されていたにも関わらず、突然死が問題になっているというニュースは聞こえてこない。

 件の記事がWeb上に掲載された数日後、NPO地域精神保健福祉機構(COMHBO)は厚労省に対し、ゼプリオンによる死亡の原因究明を求める要望書を提出し、そのことをまた、同医療系サイトが報じるという、あたかも“ゼプリオン叩き”のような動きが展開された。しかし、ゼプリオンの安全性について本気で論じるのであれば、同薬単剤使用の患者と多剤併用患者との死亡数比較も行わなければ、『因果関係が不明』のまま、薬の使用を自粛する気運だけが高まるという、最も不毛な結果に終わってしまうのではないか。

薬そのものではなく
使い方の不備を追求すべき

 ゼプリオンの最大の利点は、既存薬とほぼ同じ成分の筋肉注射を、4週に1度打つだけで効果が持続する点だ。統合失調症患者にとって、通院や注射の回数が少なく済むのは、ことのほかメリットが大きい。特に、感情の平板化や意欲の低下が起こりやすい“休息期”下の患者にとっては、急性期に逆転するリスクを抑えることにつながる。薬物療法以外の治療法が確立されていない他の多くの疾患(例えばC型肝炎治療など)においても、近年は薬剤の改良や新規開発を通じ、注射や服用の回数を少なくする方向に動いていることは間違いない。

 ヤンセン社に肩入れするつもりは毛頭無いが、ゼプリオンそのものの是非を問うのではなく、いかにすれば安全に使えるか、どのような使い方が患者を死に至らしめたのかを、早急に解明すべきである。件のWeb記事も、「他の抗精神病薬とゼプリオンを安易に併用する医師の投与法に問題があるのは明らか」と述べているように、多剤併用や投薬のタイミングに対し、あまりにも無頓着な精神科医が多すぎる点こそ、むしろ問題視すべきポイントではないのか。責任ある立場の報道機関には、「死者数が多い」という表面的な事柄を追求するばかりでなく、そうなった原因を探るための姿勢を期待したいものである。

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