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コラム

確実に増加する認知症併発の急性期患者
病院側の受け入れ体制はどうなる!?

 認知症を合併している高齢患者の入院受け入れに対し、多くの急性期病院が二の足を踏んでいる。ある医療経営専門誌が実施したアンケートによると、認知症を有する(その可能性が高い)高齢の急性期患者について、『入院受け入れには消極的』と回答した病院が、有効回答数の80%強を占めていたという。理由として最も多かったのは、「認知症の中核及び周辺症状によって救急医療が妨げられる可能性が高い」という、急性期病院ならではの内容だったが、「治療に対し患者本人あるいは家族が非協力的」という回答も、少数ではなかった点が気にかかる。噛み砕いて言えば、『患者や家族が“クレーマー”的なので入院してもらいたくない』ということだ。患者や家族はなぜ、クレームを発しているのか。

家族らによる無神経な言動が
患者受け入れを消極化させる

 「患者さんのご家族から、『入院させたら(認知症の症状が)よけい酷くなった』などと言われると、うちとしても対応に困るし、正直なところ迷惑。我々としては、BPSD(周辺症状)が一時的に大きくなる可能性があるのは判っていて、入院を受け入れているのだから」と、福岡市内の救急病院医師。同じ病院の看護師長も、「入院直後は、環境の激変や不快な感情、治療に伴う活動制限などが、BPSDの助長や治療拒否に結びつくことが少なからずあります。それに備えるため、受け入れ時には既往症や生活歴、認知症の可能性の有無などを家族から聞き取るよう配慮していますが、クレームを出す家族にかぎって、患者さんの身体的・心理的・社会的背景などをきちんと把握していないし、報告もしない」とぼやく。

 最も厄介なのは、何らかの外科的手術が必要な高齢患者が、術後せん妄などで徘徊して転倒事故を起こしたり、就寝中にラインを勝手に引き抜き、出血していたような場合。以前、このコラムでも書いたが、70歳以上で開腹手術を受けた患者の平均30%ほどに、大・小の術後せん妄が発生したという観察統計がある。認知症と術後せん妄とは明らかに異なるものだが、『医療ミスが原因で認知症の症状が現れ始めた』といった種類の言いがかりをつけられることも、珍しくは無いそうだ。

 言うまでもなく、国内の多くの急性期病院で患者の高齢化が進んでおり、救急の患者が認知症を合併している確率も高まっている。これに対応するため、多くの病院は、受け入れ時の認知能力チェックや家族からの聞き取り等を強化。療養病棟を併設、または同一医療法人に持つ病院の中には、認知症患者への対応に慣れた看護師を一般病棟に異動させる…などの認知症対策を進めているところもある。

 しかし、そうした内情を知らず、病院側の説明にも納得しない一部家族らの無神経な言動が、救急病院における認知症合併患者の受け入れを消極化させる一因となっているのは、どうやら間違いなさそうだ。

診断と治療の煩雑さが
医療現場での悪循環を生む

 進行を抑えられる認知症と、そうでない認知症とがあり、認知症と間違われやすいものの、全く異なる疾患も存在する点が、認知症治療を煩雑化させる原因の1つになっている。

 例えば、認知症全体の50~60%を占めると見られる「アルツハイマー型認知症」に関しては、症例の発表から100年近くが経過しているだけに、複数の症状改善薬が開発されている。中でも、脳内神経伝達物質の一種であるアセチルコリンを分解する酵素の働きを阻害し、神経伝達物質の作用を高めるタイプの薬は、発症初期から投与を開始することで、多くの場合は症状の進行を遅らせられる。また、アルツハイマー病の主原因とされるβアミロイドを減らす(または大脳皮質に沈着するのを防ぐ)効果があるワクチンも、臨床実験が進行中だ。

 その一方で、認知症の20%弱を占める「脳血管性認知症」の場合、脳梗塞や脳内出血によって脳神経の一部が不可逆的な損傷を受けているため、「認知症治療」と言うよりも、いかに介護度を上げないようにするかが医療対応の主眼になってくる。また、男性に多い「レビー小体型認知症」に関しては、もの忘れよりも幻視・幻覚が主症状になるため、症状の発生程度に合わせた抗精神病薬の併用が必要。その他にも、「アルコール性認知症」の場合は、アルコール依存症治療を優先すべきであり、「FTD(前頭側頭型認知症)」では、治療よりむしろ、デイサービスなどを活用した監視的介護で、反社会的行動を起こさせないよう配慮する必要がある。

 認知症と誤診されやすいものの、全く異なる疾患であることが近年になって明らかになったのが、「特発性正常圧水頭症(iNPH)」。脳では、毎日500mlほどの髄液が産生され、脳室内や脊髄のすき間などを循環しているが、この循環・排出が原因不明で滞り、髄液が脳室内に異常に溜まる病態である。もの忘れや尿失禁、歩行姿勢異常など、あたかも認知症のような症状が発生するが、脳内にシリコン製カテーテルを埋め込んで髄液を脳以外に流す「シャント術」を施せば、歩行障害の90%近く、認知障害の約40%は改善される。

 つまり、認知症の種類や類似疾患の有無により、病院側が行うべき医療行為も、ことごとく異なってくるわけだ。しかし、「もの忘れ外来」などの診療科を持たない病院の場合、救急で来院した高齢患者に対し、認知症に特化した入院時検査を行うことは困難。結果的に、急性期の治療終了後、他の医療機関に回したり、必要以上に退院を急がせることになる。そして、認知症治療に関する情報を中途半端に聞きかじった家族らが、たらい回しだの医療ミスだのとクレームをつけたがる。まさに『悪循環の構図』が、現実の医療現場で作られている。

「認知症地域支援推進員」が
医療と介護、患者家族との架け橋となる

 アルツハイマー型がそうであるように、認知症は発症の初期段階で適切な治療を開始すれば、症状が改善する可能性も高くなる。それ以外の種類の認知症でも、早期診断・早期治療が適えば、症状を最小限に抑えられるケースが少なくない。認知症が疑われる患者を迅速・的確に診断し、治療につなげられる医療体制の整備と、一般の人々に対する認知症に関する正しい知識の啓発は、超高齢社会に突入した我が国にとって、最重要課題の1つと言えるだろう。

 各自治体も、その認識を強めており、政令都市の中では高齢化率が全国1位である北九州市は、「第二次北九州市高齢者支援計画」をスタートさせ、『高齢者が安心して暮らせるまちづくりの実現』に向けた施策を、官民一体となって推進中。福岡市も、「福岡市認知症疾患医療センター」を核とした認知症医療体制の整備に力を入れている。

 北九州市の場合、「認知症対策連携強化事業」「認知症コールセンター」など計4項目の事業を中心に、市内40ヵ所以上の医療機関に「ものわすれ外来」を設置させたほか、小倉南区の小倉蒲生病院を「認知症疾患医療センター」に指定し、地域ごとの認知症研修等を推進しているのが特徴。一方の福岡市は、医師会との連携により、認知症相談やスクリーニング、初期診断、通院治療受け入れを担当する「認知症相談医」を独自設置した点と、地域の認知症医療体制づくりを支援する「サポート医」と「認知症相談医」とを、各区の保健福祉センターと連携させた点が特徴だ。

 その他の自治体も、同様の取り組みを推進中だが、福岡市・北九州市を含む大半の自治体が、今後さらに力を入れねばならないのは、「認知症地域支援推進員」の増員と活動の活発化ではないだろうか。新オレンジプラン政策の一環であり、地域包括ケアシステム構築の“要”となるべき地域支援推進員だが、その活動実態は、自治体ごとに大きなバラつきがあるのが実情。自治体や医師会が、基本的に「待ち」の対応しか行いにくいのに対して、民間側に近い地域支援推進員は、医療側と患者及び家族、さらに介護事業者との「架け橋」としての対応が行える。認知症に関する制度や取り組み内容を、住民に周知する役割も期待されている。

 政府は先ごろ、認知症地域支援推進員の配置目標を、『2018(平成30)年度中に全ての市町村で配置』と上方修正した。今後、地域の実情に応じた初期集中支援チームの設置や地域支援推進員の配置などが進むことによって、医療現場を悩ませている「患者及び家族の不理解・非協力」も、解消に向かうのではないだろうか。

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コラムニスト

    報告 ID:gVpMzsoD5K

    患者も患者の家族も思考停止してしまう状況になんとか対処してほしい。ただ入院させるだけはダメなのだ。

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