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コラム

「共謀罪」で精神疾患者の対話現場は窮屈に
自由で安全がなくなる心理的圧迫が怖い

治癒行為が台無しに

 犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織的犯罪処罰法の改正案は、野党や日本弁護士連合会など各種団体からの反発がある中で、与党はテロ対策を理由に成立に向けて突き進んでいる。

精神疾患者の現場で、疾患者の思い描く社会進出・復帰に向けてコミュニケーション改善を試みている立場として、改正案は自由なコミュニケーションの妨げになる文化を作ってしまうことにつながりそうで、強い懸念がある。特に統合失調症などの妄想や気分が上下してしまう変調症などとのコミュニケーションに寄り添う者として、時には犯罪まがいのことを口にする疾患者とともに語り合うことは、社会的に治癒していく一環であるのだが、場合によっては、当事者自身がそれを「罪」と思い込んで、口をつぐみ、心を閉ざし、コミュニケーションが停滞してしまうことになりそうで、恐ろしくなってくる。

 このような法律は、運用するに従って、不備が指摘され、追加で捜査関連の法律が生み出されていく。そこには必ず精神障害者の発言の真意をつかむための何らかの手段も法的な強制力で究明する道筋を作るはずだ。

 治癒に捜査が乗り込んでくることになれば、それは治療行為を台無しにし、かえって疾患者を増やすことになるだろう。

共謀罪を理解する

 「共謀罪」は2人以上の者が、犯罪を行うことを話し合って合意することを処罰対象とする犯罪とされる。犯罪の「行為」がないのに、それに向けて話し合っただけで処罰することができるのが特徴だ。

ここで問題になるのは、「合意」というのは、「心の中で思ったこと」との区別がされにくいということであり、この点はいまだにあいまいなままである。

近代における刑法の基本は、犯罪を心の中で思った「犯罪意思」は処罰されない、ということ。怒り心頭となって殺意を抱いても行為に及ばなければ罪にはならない。この殺意が具体的な結果・被害として表出してはじめて処罰対象になる。

つまり、刑法の大原則は、行為に至った「既遂」の処罰が原則であり、「未遂」は例外。行為に至る前の「予備」は極めて例外であるが、どれにしても常に「行為」があって犯罪は成立する。

 この大原則の例外である「予備」よりも、はるか以前の「合意」だけで、しかも「行為」がなくても処罰する今回の改正案は大原則の大きな変革でもある。日本弁護士連合会は「処罰時期を早めることは、犯罪とされる行為(構成要件)の明確性を失わせ、単に疑わしいとか悪い考えを抱いているというだけで人が処罰されるような事態を招きかねません」と懸念を表明している。

精神疾患の現場で

精神疾患者との会話では、「波乗り」が必要な場合がある。時には疾患者が憤慨して「あいつを殺したいと思った」「絶対許さない」などと話しても、そこで支援者は「そんなこと考えてはいけない」などと諭すこともあるが、場合によっては「そうだね」と受け止めて、気分が高揚したり落ち込んだりする会話に乗ることがある。それは見方によっては、罪の領域だ。

この会話は支援者と当事者との間のみの「クローズ」でやりとりされるのを第一歩として、私は、この会話をほかの支援者や当事者に広げていき、多数による円卓のダイアローグにすることは社会的な治癒として考えている。フィンランド発祥の「オープンダイアローグ」の思想である。これは「自由に話してよい」という安全の保証が前提にある。安全に話せる中に、疾患者は自分を取り戻していくのだ。

しかし、「安全が保証されない」のが改正案後の社会である。「飛躍的だ」と反論する人もいるかもしれないが、支援者に対しても「彼は警察だ」と妄想を抱く人たちと信頼を結び、治癒していくのは、社会が誰も「あなたを責めない」という姿勢が必要である。これは現実に起こっている世界だ。一般市民も話し合いの内容によって処罰してしまうイメージは疾患者の中で拡張し「責める社会」の印象を与え、心へのダメージは大きいだろう。

想像力が欠如

改正案が成立し、共謀罪を実効的に取り締まるために考えられるのは、刑事免責、おとり捜査(潜入捜査)、通信傍受法の改正である。さらに対象犯罪等の拡大や手続の緩和も必然となってくるだろう。安倍晋三首相は「東京五輪・パラリンピックを控え、テロ対策は喫緊の課題だ」と述べる。もちろん、安全を確保するのは大事な論点だが、これまでの法律で対策は可能との見解も根強い。

疾患者やマイノリティにとっては、ただでさえ生きにくさを感じている中で、さらに彼ら彼女らの心の行き場がなくなってしまう。この目線での論が展開されないのも寂しい。

国会審議やマスメディアの報道で感じることは、マイノリティへの想像力が欠如している、ということだ。

マイノリティはじめわれわれが望む安全な国、とはどんな国だろうか。コミュニケーションが窮屈な管理社会によって成り立つ、安全の中にいる日々を幸せというのだろうか。誰かが政府の悪口を言うものなら、「そんなこと言うな!逮捕されるぞ」との罵声が飛んでくるコミュニケーション環境の中で、疾患者がコミュニケーションの質を上げて社会に復帰させる仕事は、難しさを強いられるだろう。

支援者にとっても、本当に悩ましい事態である。

(了)

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コラムニスト

    報告 ID:jp80HI3Vl7

    低脳。

      報告 ID:OSU1wbNGxP

      以下私が共謀罪反対集会で話したこと
      2017年5月23日共謀罪阻止集会でのアピール

      以下時間がなかったので当日は端折りましたが、準備した原稿
      皆様お疲れ様です、全国「精神病」者集団の山本眞理です
      私たちは2006年に私たちの絆を断ち切る共謀罪に反対という声明を出しました。
      共謀罪は話し合っただけ、人と人とが共感しただけで、それが犯罪となるというおそるべき法案です。共謀罪のもたらす社会は相互監視、密告社会です。
      独裁政権下で人は息を殺し本音を隠して、お互いに不信感を持ちつながること、連帯して戦うことを徹底破壊する社会です
      改憲に向けひた走る安倍政権は思うが儘の独裁政治を行うことになるでしょう。
      私たち精神障害者は今現在精神保健福祉法の下でいつでもいつまででも差別的に恣意的拘禁を強いられる社会に生きています。地域での監視も、地域精神医療体制の名のもとに徹底した日常生活総体を監視管理するアウトリーチという名の訪問中心とした支援体制などという試みも各地で広がっています。
      私たち精神障害者は一人なら発言も行動も症状として病理化され、精神保健福祉法による弾圧を免れないため、それを避けるために私たちは集団を作りました。集団には症状はないからです。
      しかし共謀罪の下では二人の共感、そのもの絆を作ることそのものが犯罪とされてしまいます。
      まさに1人でも精神保健福祉法で弾圧、二人なら共謀罪で弾圧という二重の息詰まる体制がいま待ち受けています。
      精神保健福祉法改悪案は、措置入院患者の退院後の手厚い支援を看板にしています。
      しかしその看板はそもそもの趣旨相模原事件の再発防止という目的により大きく裏切られています
      法案の目的は措置入院患者の個人情報を警察に流すことそして地域の精神保健体制の中に警察を正式に組み込むことにほかなりません。日常的な警察と自治体、医療機関等の綿密な連携によりまさに精神医療の治安の道具化が図られ、地域での支援どころか、この20年間で3倍以上も増えた新規の措置入院をさらに増加していく方向は明らかです
      一旦警察に渡された個人情報は一生つきまとうことになります。
      オリンピック・パラリンピックを迎える東京は従前より人口比で、日本一の新規措置入院数を誇っていますが、こうした運用がますます強化されさらに全国化することになります。単独のテロが増えたという宣伝は当然この傾向に拍車をかけることでしょう。
      さらに修正された附則では三年後の見直しでは後見人選任推進が書かれています。すでに参院の審議の中では自民党の自見議員がこの法案で「監督されるというのは妄想で、病気の症状」とまで断定し精神障害者の意志の無効化が語られています。
      私たちは後見人をつけられることにより、権利行使の主体であることを否定され、まさに一方的な保護の客体とされ、思うが儘に入院や施設収容がなされるようになります
      自傷他害のおそれ(他害には名誉毀損も侮辱も含まれています)のみを要件に精神障害者であれば人身の自由を奪うことができるという、保安処分体制である措置入院制度はそもそも撤廃しかありえません。日本が批准した障害者権利条約は法のまえでの平等を求め障害者の障害を根拠とした一切の拘禁、そして後見人制度の廃止を求めています。
      私たちは今こそ、私たちの絆を断ち切る、共謀罪を許さず、精神保健福祉法改悪を許さず、廃案に向け闘い続けること、精神保健福祉法体制解体に向け諦めることなく闘い続けることを私たちはここに宣言します。

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