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コラム

ニューロモデュレーション治療が必要な場合も
巷に広がる様々な「依存症」

 中高年男性に多いと考えられがちな「アルコール依存症」。しかし近年、若年層や後期高齢者、女性たちの間にも、アルコール依存症が広がっている。アルコール依存やニコチン依存は、薬物依存と同様、ドパミンやβ-エンドルフィンなど、脳内伝達物質の不均衡による脳疾患的行動であることが知られているが、近年は薬物要素を持たない「ギャンブル」、「買い物(異常浪費)」、「ネット(SNSやオンラインゲーム)」などへの依存で、経済的な問題や社会的障害を抱える人も増えている。違法薬物ではない、嗜好品や趣味の行動に、人々はなぜ依存してしまうのか。予防や解決策はあるのか。

「ついつい…」で飲む1杯は
アルコール依存症への第一歩

 アルコール依存症からの脱却を目指す人々が集う、全国各地の『断酒会』。福岡県の場合、福岡地区13団体、北九州地区7団体、筑後地区6団体、筑豊地区2団体の「断酒友の会」があり、それぞれの団体が定期的に、毎回2時間程度の談話会を開催している。談話会での決まりは、「言いっぱなし、聞きっぱなし」。出席者の体験談に対して、お互いが否定的な意見を口にしたり指導的態度をとらないことが、暗黙のルールになっている。叱責や教育的指導が何の役にも立たないことを、参加者たちは知っているからだ。

 「飲める方だと判っていましたが、自分から進んでお酒を飲むことはなかったし、『飲みたい』と強く感じることもなかったんです」と語る、福岡市在住の元OL。もともと口べたで、社内でも親しい友人が作れなかったという彼女。就職3年目の忘年会で“イッキ”の罰ゲームに当たり、ジョッキ一杯の酎ハイを一気飲みして大喝采を浴びたところから、アルコール依存症へのステップが始まったそうだ。

 「それ以来、飲み会に誘われる機会が増え、強いお酒を一気飲みするたびに歓声が上がるのが嬉しくなって…」。職場の人たちとの飲酒機会が増えることで、それまで喋る機会がなかった同僚や先輩社員らと親しくなり、いつの間にか『酒=楽しい・嬉しい』という方程式が、彼女の頭の中に出来上がってしまった。飲み会が無い日は、自宅に戻ってから1人で飲酒するようになり、飲酒の量も徐々に増加。今夜は休肝日にしよう…と考えていても、冷蔵庫を開けてビールや酎ハイの缶が目についてしまうと、つい手が伸びるようになった。

 数年経ったころには、飲酒のタイミングや量を自分自身でコントロールできなくなり、アルコールが切れると寝汗をかいたりイライラする、明らかな「離脱症状」が起きるようになった。以後は、絵に描いたような転落の人生。昼休み、隠れて飲酒していたのを発見されて解雇となり、再就職しても、新しい職場で酒乱ぶりを叱責されて居づらくなり、婚期を逃し1人でいることの寂しさから、さらに飲酒量が増えた。見かねた親の勧めで、アルコール依存症の専門医を受診。病院内で断酒治療を受け、退院後は断酒友の会に参加し、同じ苦しみを味わった者同士で励まし合ったり共感したりしながら、ようやくアルコールに頼らない生き方に気づいたとのこと。

 国内には現在、109万人のアルコール依存症患者と、およそ900万人の“予備軍”がいると推計されている。これほど多くのアルコール依存患者がいる最大の原因は、患者本人が自覚しにくい「否認の病気」である点。「暴れたりして周囲に迷惑をかけているわけじゃないから」「止めようと思えば止めれるから」と、酒に依存している現状を患者自身が否認するから、依存症は重症化していく。前述の元OLも、「飲むべきじゃないと判断できるタイミングなのに、つい飲んでしまうようになったら、すでに依存症だということを多くの人に知っていただきたい」と語っていた。

前頭前野の結合の弱さが
人をギャンブルにかき立てる

 今年4月、京都大学の研究チームが、様々な依存症状の中でも「ギャンブル依存症」だけに絞った神経メカニズムの研究結果を、イギリスの学術誌「Translational Psychiatry」で発表した。

 同研究チームは、ギャンブル依存症と診断された男性患者21人と健常男性29名を対象に、ギャンブルゲームを実行中のリスク選択と、ゲーム中の脳活動の状況をfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いて調べる研究を実施。被験者に、(A)「ハイリスク・ハイリターン式ギャンブル」と、(B)「低リスク・低リターン式ギャンブル」の2種類を次々と提示しながら、各ステージにクリアのためのノルマポイントを設定。なるだけ多くのステージをクリアするよう求め、ステージごとに20回、(A)(B)いずれのギャンブルゲームを選択するかを調べた。

 その結果、健常者の大半は、ノルマポイントが低く簡単にクリアできるステージでは、リスクの低い(B)を優先的に選ぶものの、高ポイントを当て続けなければクリアが難しいステージでは、(B)でポイントを堅守しつつ、適宜(A)を選択するという傾向を確認。一方、ギャンブル依存症患者の、特に依存症治療の経験が無い、または治療は受けたものの期間が短いグループは、比較的安全なステージでも、必要以上にリスクの高い(A)を優先して選び、ハイリターンを当て続けてもノルマ達成は不可能な条件下でも、不必要なプレッシャーを感じつつ過剰なリスクを負う傾向が見られた。そして、その選択行動を行う際、ギャンブル依存症グループは、脳の前頭葉の一部である「背外側前頭前野」と「内側前頭前野」との結合が弱い、つまり、状況に応じてリスクを取捨選択する能力に障害があることが明らかになった。

 旧来、薬物とは関連のないギャンブル依存症や買い物依存症などに対しては、性格的な要因や生活環境に起因するものという見方が主流だった。しかし、ギャンブル依存症患者の中でも、治療期間が長いグループの場合、リスク選択の傾向が健常者と大差なかったこと、健常者グループの中にも、ハイリスク・ハイリターンを好む被験者が少なくはなかったことなどから、依存症に陥るか否かは、性格などよりもむしろ、前頭前野内の連携機能に因る部分が大きいことが明らかになった。

認知症や重大疾患を併発する前に
医療的介入を求めるべき

 一般に、日本人は欧米人と比較して、ギャンブル依存症が多い(なりやすい)と言われている。実際、ここ10年間の自己破産申請者の推移を見ると、ギャンブルが主因と見られる破産手続きは、倒産などによる手続き件数より高い伸び率を示しており、買い物依存症が疑われる異常な消費行動による自己破産も、それに次いで高い伸びを記録している。

 薬物依存に関しては、ドパミン濃度の急上昇と、脳内の「即坐核」との関連がある程度まで解明されており、薬物摂取が長期化することによって薬物に対する耐性が生まれ、より多くの摂取を脳が要求するようになる機序も明らかになっている。そのため、抗精神病薬の使用や、場合によっては脳に電気的・磁気的刺激を与えることで脳神経活動を活性化させる、「ニューロモデュレーション治療」も行われるようになっている。

 しかし、薬物以外の依存症に関しては生理学的メカニズムが完全には解明されておらず、前述した京都大研究チームによるギャンブル依存症研究も、前頭前野内の連携機能に問題があることは判明したものの、それが先天性のものか後天的なものか、後天性であればどのような原因で発生するのか…といったことまでは判っていない。ただ、アルコール依存と自殺には密接な関連があり、肝硬変や肝がん、さらに認知症リスクも高くなること、ギャンブル依存は患者本人だけでなく、家族や周囲の人間にも大きな悪影響をもたらすこと、ネット依存が原因とみられる青少年の自殺件数が増えていることなどは、間違いのない事実だ。

 ちなみにアルコール依存症の場合、WHO(世界保健機構)調査に基づく「AUDIT」というテストで診断し、明らかなコントロール障害が診られる場合、保険適用による治療が受けられる。ギャンブルや異常消費など、巷に広がる様々な依存症に関しても、早期発見と治療が確立されることを望みたい。

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