精神科ポータルサイト サイキュレ - Psychiatry Curation

精神科医療関係者様の会員登録をお待ちしております。  新規会員登録  ログイン

コラム

「なめんな」から脱却するための視点
小田原市の生活保護対応と精神疾患

報告に欠けた1点

 神奈川県小田原市で生活保護担当職員は約10年にわたり、「保護なめんな」とローマ字で書かれたジャンパーを着て、業務にあたり批判された問題で、同市が設置した有識者の検討会「生活保護のあり方検討会」(座長・井手栄策慶応大教授)が4月に最終報告をまとめた。

報告書は、現在の生活保護行政に関する問題点や社会の生活保護に関する認識を踏まえ、問題の経緯とその背景・素因を示しつつ、改善提案を簡潔にまとめた内容だった。改善案をもとに全国的に抱えているはずの生活保護行政において「小田原モデル」を確立してほしいと期待しつつ、指摘したいのは、生活保護と精神疾患や精神的な不安定な状態にある方々は密接に関係しており、検討会が示す改善案の現実的な展開に向けては、精神疾患者を想定した取組みが欠かせない、ということである。

 再度、問題となったジャンパーに書かれていた内容を示したい。それはローマ字で表記された「生活保護なめんな」であり、後ろには以下の内容が書かれてあった。

「TEAM HOGO」「We are “the justice” and must be justice, so we have to work for odawara. Finding injustice of them, we chase them and Punish injustice to accomplish the proper execution. If they try to deceive us for gaining profit by justice, “WE DARE TO SAY, THEY ARE DREGS!”」

和訳すると、「チーム保護」「私たちは『正義』であり、正義でなければならず、小田原のために働かなければならない。彼らの不正を見つけ、彼を追って、不正を罰することで処罰を適切に遂行している。彼らが欺いて不正に利益を得ようとするならば、『あえて言わせてもらう、カスであると』」(筆者訳)

意志には同情だが「ふざけすぎ」

 このジャンバーは担当者が自費で作ったもので約10年にわたり、窓口や訪問の際にも着用していたという。報告書によると、ジャンパーを作った発端は、2007年に生活保護費の支給を打ち切られた男性が、市役所の窓口で職員を負傷させた事件。1人暮らしのアパートを管理者とのトラブルで退去しなければならなくなった男性と連絡が取れなくなり、保護を打ち切ったことから、振り込まれていないことに腹を立てて、市役所に訪れ、職員にカッターナイフで切りつた事件だった。事件を受け、担当者らは現場の「連帯感・結束を高めるため」にジャンバーを作ったという。

 報告書は、現場に自立の概念を就労や経済的自立と狭く捉える空気が強く、ケースワーカーは目標の未達成感から不正受給の摘発を代替的な目標にしたのではないか、と指摘しているが、この心情については理解できる。

 生活保護受給者に関する仕事は困難な事例に向き合わなければならないこともあり、それは、生活困窮が何らかの社会的コミュニケーション不全を伴っていることが考えられるから、職員のストレス過重は想像以上と考えられる。

 だから、ジャンパーを作って励まし合おうという動機には賛同する。

 とはいえ作られたジャンパーは「悪ふざけ」「悪のり」の印象が見受けられる。有名なサッカーチームのロゴをまねたり、先ほどの英文のセリフはアニメ「機動戦士ガンダム」の登場人物の名言でもある。そんな模倣の産物には動機はともあれ、心からの共感は得られにくい。この点について報告書は触れていない。

 さらにブッシュ大統領時代の米国が「正義」を理由にアフガニスタン攻撃を行ったように、権力側が「正義」を振りかざす時、それは威圧にしかならない場面がある。結果的に、敵を作るだけになってしまうことは、行政手続きの遂行にはふさわしくないであろう。

自立の概念を広げるなら

 検討会は市役所職員へのアンケートも実施するなどした検討結果として、各領域で以下の指摘を行った。

「生活保護の現場レベルの問題点」として、(1)援助を必要とする側の視点の軽視、支援者としての意識の弱さ、(2)組織としての目標設定とマネジメントの失敗、「市役所全体レベルの問題点」として、生活保護行政に対する市役所全体としての関心や理解の低さ等。「市民全体レベルの問題点」として、(1)全国同様、小田原市の中にある生活保護をめぐる深い社会的な分断、(2)みんなにとって満足できるセフティーネットを小田原でどうつくっていくか、(3)実現にはお金が必要で、必要な負担を求めていくことから逃げない、とした。

 この点を踏まえた改善策としては、「援助の専門性を高める研修や連携による学びの場の質的転換」「利用者の視点に立った生活保護の業務の見直し」「利用者に寄り添い、ケースワーカーが職務に専念できる体制づくり」「『自立』の概念を広げ、組織目標として自立支援の取組を掲げる」「市民にひらかれた生活保護を実現する」の5点を明記した。

 ここで気になるのは自立の概念をどのように広げるかである。これを追及すれば、仕事の質は上がると思われる。

精神疾患と生活保護

そこで考えてほしいのが、冒頭で述べた1点の違和感である。精神疾患者と関わる領域の人なら、それは生活困窮や生活保護とも密接に関わっているから分かるかもしれない。自立の概念を広げることに密接に関わるが、基本的な仕事の立脚点として、生活保護者の「生きづらさ」や、その状態になった根本に思いを至らせ、それぞれの自立について考える必要があるのである。

それは「精神疾患」の部類の可能性もあるが、診断の上では「人格障がい」として、もしくは診断を拒否し続け、病名もないままに、その生活になっている人も少なくない。この人たちへの対応が、職員にとってはストレスであり、社会の分断を生んでいる原因である。

つまり、生活保護の原因に対する無理解である。

 毎日新聞の報道によると、ジャンパー問題が発覚した後、小田原市に届いた意見のうち、批判は1064件(54%)、職員を擁護するものが899件(46%)で、「不正受給と闘う姿勢をよく示してくれた」などの声も多く寄せられたという。

 これは社会の風潮を示しているものであろう。勇ましい言葉が重宝される世の中だ。でも、考えてほしい。不幸が重なって誰もが保護されなければならない可能性がある。それが、どんな形であれ、私たちはやはり。支え合わなければならない。そこには、寛容さを基本にしたい。その上で不正受給に対しては、行政手続きを瑕疵なくやることだけで、十分であり、その結果として不正受給を追及する仕事が生まれるだけとしたい。

 今後の「小田原モデル」の構築に注目したい。

(了)

  • 2917人見ました
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ページの先頭へ

コラムニスト

    報告 ID:ysOZE7RErW

    自立の概念といわれると 自立もできないのか との上から目線を感じます。自立できるようならとっくの昔に自立しているに決まっているさ と言いたくなります。みなでともにいきましょうね というのはどうでしょうか。oldsailor36

      ページの先頭へ

      facebookコメント

      ページの先頭へ

      関連コラム

      ページの先頭へ


      Top