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コラム

『地域生活を支えるための精神医療』は実現するのか
疑念の声飛び交う精神保健福祉法改正案

 今年2月末、第193回通常国会に上程された「精神保健福祉法改正案」。件の相模原大量殺傷事件を受けてまとめられた改正案だったため、当初は改正案概要に、「二度と同様の事件が発生しないよう法整備を行う」との筋違いな文言が明記されていたり、その文言が、“精神医療を治安の道具にするのか”との集中砲火を受けたことで、審議入り後に文面の一部を削除したり、さらに100人規模の精神保健指定医資格取り消しという前代未聞の事件を受け、指定医資格を厳格化させる内容も盛り込んだりと、まさに“擦った揉んだ”を繰り返し、時間だけが経過している。「措置入院患者の退院後フォロー」、「精神障害者支援地域協議会の設置」など、『精神障害者の社会復帰の促進』について真剣に検討したようにも見える同改正案だが、いまだに各方面から疑念・疑問の声が出され続けているのはなぜか。

賛否両論を生む原因は
タイミングの悪さと“ツメ”の甘さ

 まず、法案作成のタイミングが悪かった。以前、本コラムでも書いたが、今回の法改正のスタートラインは、昨年初に1回目会合が行われた医療保護入院制度の見直し検討。ところが、同7月に相模原事件が発生し、被疑者の措置入院歴が大々的に報道されたことで、検討の主題が「措置入院制度の見直し」に切り替えられたものだ。

 十分な議論がなされぬまま作成された法案なので、容疑者の精神鑑定留置の結果、事件と精神障害とはほぼ無関係であることが明らかになっても、方向転換の余裕はなかった。法改正趣旨の冒頭にあった「二度と同様の事件が発生しないよう法整備を行う」との文言は、異例の対応として、国会審議が始まってから削除されたものの、本文は変えられていない。そのため、肯定的に評価すべき『措置入院者が退院後に医療等の継続的な支援を確実に受けられる仕組みの整備』の一文も、相変わらず「退院後の措置入院患者を“監視”する内容としか思えない」などの否定的・懐疑的意見が各方面から出されている。

 政府は、監視ではなく支援の強化であることを折に触れて強調してきたが、そもそも「退院後の支援」は、措置入院患者だけに必要なのではない。任意入院であれ医療保護入院であれ、医療等の継続的な支援は必要なのだが、ことさらに『措置入院者』と限定するから、改正案反対派の「精神障害を理由に人権を制限する法案だ」「精神障害者に対する偏見を助長する」という意見は変わらない。

 措置入院は、障害を理由に万人の基本的自由と人権を制限、排除することを禁じる障害者権利条約に抵触する…という指摘が、ずいぶん前から出されていた。にも関わらず、措置入院制度の是非を問うことなく、措置入院者に対する処遇の拡充を謳ったのが失策だった。前後して、相模原事件加害者の措置入院解除を判断した精神保健指定医が、レポートの不正によって指定医資格を取り消された問題が絡み、同資格の審査及び更新の条件を厳格化する法案まで盛り込まれたため、ますます『相模原事件の再発防止のための改正案』との色合いが濃くなってしまった。

 タイミングの悪さと、その帳尻を合わせなかった政府のツメの甘さが、改正案に対して根強い反対意見が出されている最大の原因と言える。

「地域協議会」の設置で
在院期間がさらに長期化する

 改正案に掲げられた『精神障害者支援地域協議会の設置』についても、賛否両論がかまびすしい。自治体が設置する同協議会には、代表者会議と個別ケース検討会議を経て、退院後支援計画を作成することが求められているが、これまでほぼ放置状態だった退院後の患者に対して、自治体や精神医療関係者らがフォローアップの具体策を練る点に関しては、おおむね肯定的な意見が出されている。

 ただ、これが入院長期化の一因となることを危惧する声も、決して少数ではない。もともと、措置入院患者をどのタイミングで退院させるかについては、医師の判断に委ねられており、はっきりした基準が無いのが実情。現行の精神保健福祉法では、「自傷他害のおそれがなくなれば直ちに退院させる」と定められているが、精神科医が「まだ危ないかもしれない」と判断すれば、措置解除は延々と先延ばしになる。

 我が国の精神科病院は、他の医療先進国の同科の医療機関と比較して、異常なまでに在院日数が長いのは今さら言うまでもない。支援計画の策定は、原則的に措置解除までに行うことになっているのだが、行政と警察関係者、精神科医、障害者団体や家族会、措置入院患者が帰住する予定の自治体職員などを集めた代表者会議、個別ケース検討会議を開くとなると、各担当者の日程調整や個別計画の策定のために、どれだけ時間がかかるか予想もできない。

 措置入院が長期化することで、拘禁反応などの症状増悪が発生すると、措置解除の判断はさらに遅くなるだろう。退院後の精神障害者を支えるための制度・施設・人材が絶対的に不足している現在の日本で、退院後の計画を作るよう法律で定められても、地域に退院患者を支える環境が整ってない状態では作りようがない。こうした点が、「精神障害者を危険な存在と決めつけ、強制的に長期隔離しようという法案」との意見への賛同者を増やすことになる。

改正の議論をすべきは
「とりあえず保護室へ」の悪慣習

 「退院後生活環境相談員」を選任することによる患者のプラバシー侵犯、退院後支援計画を作成する代表者会議の構成メンバーに警察を含めていることなど、どこを切っても「犯罪防止の観点から、監視を強化する改正案」の色合いが否定しにくい精神保健福祉法改正案。改正案の趣旨が、本当に「精神疾患患者に対する医療の充実と、退院後の社会復帰支援」なのであれば、実態のない枠組みだけを明文化することに労力を費やすのではなく、措置入院のあり方そのものについて議論すべきではないのか。

 日本の精神医療の現場では、救急で運ばれてきた患者の話をじっくり聞いてから処遇を判断する病院の数は非常に少ない。とりあえず保護室に入れ、自傷他害行為を防ぐため、すぐに身体拘束するのが一般的だ。しかし、例えばリストカットなどの自傷行為で運ばれてきた患者の場合、他人と会話することで、極度の不安感やパニックから抜け出せるケースが非常に多いという。自傷行動は、過度のストレスを解除するための手段であり、むしろ「生きる」ために行っている行為とする見方が主流になりつつあるそうだ。ところが、自殺企図の有無を確認しないまま、生命の安全を優先するという名目で無条件に措置入院の判断を下すと、逆に精神症状を悪化させることの方が多い。

 精神科病院への入院は本来、本人の同意に基づく任意入院が大原則だ。しかし、現実には措置入院や医療保護入院など、強制的な入院患者数が、任意入院数とほぼ同程度であり、“やむを得ず”行うべき隔離や身体拘束の実施件数が、ここ数年間で倍増していることも、厚労省発表で明らかになっている。

 法に謳われる「特例として」「場合により」は、得てして「当たり前のこと」になりがちだ。今回の改正案に、「場合によっては地域における患者管理・リスク管理のためのものとなる」恐れが少しでもあるのなら、もう一度、精神障害者の人権と自由に立ち返った議論が必要なのではないか。

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コラムニスト

    報告 ID:qozVk6sIyd

    国連人権理事会健康の権利特別報告舎(精神科医)の報告書以下に邦訳掲載しました
    国際人権水準は障害者権利条約を受けてココまで進んでいます
    http://www.jngmdp.org/%E5%9B%BD%E9%80%A3%E4%BA%BA%E6%A8%A9%E3%83%A1%E3%82%AB%E3%83%8B%E3%82%BA%E3%83%A0/%E5%9B%BD%E9%80%A3%E4%BA%BA%E6%A8%A9%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A/4239

    WHOも障害者権利条約を受けて、強制入院強制医療の廃絶に向けて動き出しています

    健康の権利特別報告者が触れているWHO。QualityRights Toolkit 邦訳できておりませんが

    http://www.who.int/mental_health/policy/quality_rights/guidance_training_tools/en/

    その中の一つ
    身体拘束と隔離の強制の廃止に向けての戦略

    http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/254809/1/WHO-MSD-MHP-17.9-eng.pdf?ua=1

    ご参考までに

      報告 ID:d6U1aGcGGC

      堀辰也さん、あんさん、自分の「理想」を主張するのは、かまへん。けどな、精神疾患患者の意見をどれだけ聴取したんや?それに、あんさん、イタリアには精神科病棟がもうずっと前から廃止されてんの、知ってんの?かなわんな!2017年7月2日(日)午前1時56分・文責・藤井深

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