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コラム

疾患者の社会進出と措置入院
就労移行の現場から支援の質向上を考える

両極にふれる人

 就労移行支援の仕事は一般企業を目指す人たちが対象だから、重度な障害者がおらず、支援も簡単ではないかと思われがちである。これは雇用契約を結ぶ就労継続支援A型事業所や雇用契約を結ばない就労継続支援B型事業所と比較すると、一般企業という「社会の荒波」に船出するわけだから、「自立できている」というのが就労移行に通所する前提となっているから、そうかもしれない。さらに、病状が安定している、もしくは回復している通所者が静かに就労に移行する成功事例を見ると、困難なこれまでの道のりもすべては美談になって、それが流布されている影響もあるかもしれない。

しかしながら、病状が回復して意気盛んに一般企業の門を叩いてみても、就職に至るまでにはいくつかのハードルがある。書類選考や面接試験で不採用決定の連続により、再度体調を崩し、病状が戻ってしまうケースもある。その際に精神状態が急降下してしまい、以前よりも悪い状態になる時さえある。

さらに自分が不採用になるのは、先方の会社の責任にしたり、支援者の責任にしたり、周囲の環境が悪いと他責への憎悪に発展しまう場合もある。恐ろしい言葉を口にして、支援者がどのように対応したらよいか悩み、時には、措置入院の可能性も考えなければいけない事態もあるのだ。

「措置」は自由奪う

この精神疾患者に対する措置入院は、精神保健福祉法の改正により運用が見直されたことを考慮しなければいけない。今回の改正案は、2016年7月の知的障がい者施設での殺傷事件を受けて議論が進み、精神疾患者への効果的な治癒よりも治安維持の側面がクローズアップされたことから、その運用については地域医療や支援の現場で慎重に対応しなければならないという指摘も多い。

今回の改正のポイントには「措置入院者の退院後に医療等の継続的な支援を確実に受けられる仕組みの整備」「精神障害者支援、地域協議会の設置」も掲げられているが、これが「手厚い支援」と見るか、「窮屈な監視」と見るかは立場によって大きく変わるだろう。

私が支援者として考えたいのは、やはり「措置入院」とは自由を奪う措置になるから、慎重に運用するべきだという視点を忘れてはならない、ということ。誰もが人の自由を奪うことを望んでいないのに、制度が出来ると、その制度を誤謬なく運用することに囚われて、結局はお互いが監視する窮屈なシステムを作り上げてしまう。そんな組織や集団の習性を、私たちは自覚する必要があるだろう。

措置入院の判定をする基準である「自傷他害行為の可能性」は、指定医が判断するものであるが、その判断により措置入院した場合、就労移行で奮闘していた人が再度「やり直し」となることも覚悟しなければいけない。

2年のプレッシャー

就労移行支援事業所の利用者は、基本的に医師の診断を受けており、利用にあたっての計画を作成する相談員がおり、利用者が居住する自治体がそれぞれの審査を経て受給者証を発行して利用が可能となる。

そのため、支援関係者は複数おり、当事者が就職活動で精神状態の悪化などが生じた場合や、家族の病気だったり、人間関係の悩みで極端な落ち込みなどで就労移行支援以外の支援が必要な場合は、それら支援関係者と話し合いながら、より効果的な支援行動を考えることになる。就職活動がうまくいかずストレスが蓄積したり、日常生活の何らかの変化により、状態が悪くなり、豹変した態度となり、周囲とのトラブルになるケースで警察沙汰となることもある。

行方不明者の捜索や自殺未遂者の保護等で警察に行き、支援者として警察とのやりとりを経験して思うことは、警察は治安を維持するための機関だから、安全を確保されることが最優先であり、安全確保の措置のために人は扱われ、福祉の現場で期待されるようなケアの思想は皆無であるということである。

福祉の現場にいれば、トラブルを処理するために、大きな力がほしいと思っている支援者もいるのも事実だ。何かあったら「措置入院」」という方策は否定しないが、そもそも就労移行の現場で、利用者の状態が悪くなる可能性を考えてしまうのはなぜだろうと思いを巡らせてみると、就労移行における時間のプレッシャーが一因ではないかと思う。

それは、就労移行支援という制度を使える、一生のうち2年(場合によっては1年の延長可能)という時間の区切りである。

支援の質を上げるために

2年間を長いととるか、短いととるかは、利用者次第の側面と、事業所次第の属面がある。利用者の場合は、「半年で体調を整えて、次の半年で、週5回の通所ペースを維持しながら仕事のスキルを磨いていく」という1年計画で事が進むケースもあれば、10年以上も引きこもった状態にある人が、2年間で就労状態までリカバリーするのが難しいケースもある。

勿論、自立支援などのステップを踏みつつ、医師の判断を受けて、就労可能となってからの利用開始により、そこからの2年間ならば可能ではないか、という指摘もある。

しかし、人は一定ではない。毎日の浮き沈みや季節の移り変わりで、一進一退を繰り返しながら静かに進んでいく人もおり、そんな人には2年間はあっという間でもあるのだ。

さらに、社会に出たことがないまま引きこもった人は勿論、就職した後に引きこもった人でさえ、社会に出る恐怖はやはり当事者でなければわからないほどに深刻であろう。

 そして事業所次第の目線では、個別への対応ができるかどうかによって2年間が有効に使うかどうかが決まってくる。2年間も就労移行支援事業所に通った後に「就職が出来そうにない」と相談をしにきた30代の男性から聞いたのは、「ひたすらパソコンだけをやらされて、何もアドバイスされることなく、何となく時間が過ぎてしまった」のだという。

就労移行支援事業所は全国で約3000もあるから、利用者を放置したまま事業を成り立たさせている事業者もいるかもしれない。就労実績がない事業者には、行政からの指導があるなど、適正な運営に向けて自治体も指導する仕組みもある。しかしながら、就労移行は自らのコンテンツを生み出し、就労支援に向けて有効な方法を考え抜き、実践に向けて取り組まなければならないだろう。私の事業所でもその挑戦の連続だが、就労実績を出せば出すほど、就労先とのコミュニケーションが必要となり、マンパワーを補充しなければならず、それには制度が追い付いていないことも分かってきた。

 就労移行にしても、今回の措置入院の改正についても、精神疾患に関する法制度は新しいものが多く、運用次第でその質も変えていける時期にある。

その新しさ故に、支援の最前線に立つ支援者と各自治体・関係機関が連携して、支援の質を上げるために独自の施策も打ち出せるはずで、現場から新しい形を作っていく時代に向けて、私も日々奮闘したいと思う。

(了)

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コラムニスト

    報告 ID:9mfRdTXwRs

    私も就労支援A型、就労移行支援の事業所で働けないていたときに、同じようなことを考え、悩みました。
    そもそも10人居れば、10人違うのに同じ箱に入れて、同じような支援することに意味があるのか?事業所の在り方自体にいつも疑問を抱えていました。
    これなら、ジョブコーチを派遣する事業の仕組みをもっと整えて、企業や店舗にもっと直接、利用者と支援者が関われるようにしていくことの方が、より働ける環境を作って行けるのでないかと思いました。
    後、少し別の話ですが、私が働いていていて、精神障がいの利用者さんに、元々発達障がいを抱えていたのではないかと思われる利用者さんも多くて、それを考えると、もっと幼い段階で、その事に気付いて適切な環境のなかで、将来を考えられる支援の充実をしていかないと、今の社会状況では、どんどん精神疾患者を増やしていってるのではないかと思いました。

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