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コラム

「性同一性障害」患者を救えるのは
精神科医療か、外科的治療か

 性同一性障害(GID/Gender Identity Disorder)の治療をめぐり、身体的治療に進むまでの“高すぎるハードル”が問題視されている。GIDの身体的治療を受け付けている医療機関や、GID患者の支援団体などは、性適合手術抜きでは患者の精神的苦痛の解消は困難…との主張を続けている。しかし、同手術を受けるためには、精神科や産婦人科などによる煩雑で長期におよぶ検査・診断が必要な上、厚生労働省としても、GID患者の苦しみを、可能な限り精神科医療によって緩和させる方向性を暗に示している。近年、性的マイノリティに対する差別・偏見を無くそうとの機運が高まっていることから、今後、この問題に関する議論は加熱することになりそうだ。

根本的な原因が不明なだけに
法律とのすり合わせが難航

 「GID」という疾患は、一般にはまだあまり理解されていない。最近でこそ各種メディアが、性的マイノリティを表す『L・G・B・T』との言葉を多く用いるようになったが、GID当事者たちの多くは、その傾向をあまり歓迎していないという。

 L(レズビアン)、G(ゲイ)、B(バイセクシュアル)が、あくまで性的な嗜好であるのに対して、GIDを含むT(トランスジェンダー)は、精神的あるいは身体的な疾患であるからだ。“精神的あるいは身体的な疾患”という書き方をしているのは、GIDの発症原因が、まだほとんど解明されていないため。

 発生生物学的な原因、つまり、受精卵が母胎内で細胞分裂を繰り返し、性別が決まるあたりのタイミングで何らかのエラーが生じた結果…との説が有力視されているが、なぜそのようなエラーが発生するのか、反対の性として発達するのが脳側なのか身体側なのかは、未だ判っていない。

 いずれにせよ、L・G・B・Tという言葉の広がりに伴って、人々が性の多様性を理解するようになってきたことは喜ばしいことだが、単なる性的嗜好と“横並び”で解釈されると、疾患に対する正しい理解が妨げられる可能性は否定できない。

 我が国で初めて、公的に認められた性別適合手術が行われたのは、1998年10月。それ以前も、いわゆる「ブルーボーイ事件」(65年)に代表されるような、非合法な性転換手術は各地で行われていた。しかし、発症の機序が不明なだけに、優生保護法(当時。現在は「母体保護法」)とのすり合わせが行いにくく、他の医療先進国に10年以上の遅れをとって、公的に認められる外科手術がスタートした。

患者数(推計)は全国4万人超
しかし、手術に到達できるのはごく一部

 GIDは、「極めて珍しい疾患」というわけではではない。10数年間にわたってGIDの調査を行っている北海道文教大学の研究グループは、『札幌市内の約2800人に1人の割合でGIDの患者がいる』との推計を発表。これを国内の総人口に当てはめると、国内には約4万6000人もの患者がいることになる。

 この数は精神科や内科等の医療機関を受診した患者数をベースに推算したものなので、人知れず苦しんでいる人も含めると、さらに多くの患者がいるのかもしれない。そうした状況を受け、国は『性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律』を04年より施行。これにより、医療の面でも法律面でも、GID患者の苦痛を解消する筋道が整備されたかに思えた。が、「特例法」のハードルは、思いのほか高かった。

 GIDの性別適合手術を受けるためには、まず、2人以上の精神科医が、患者の詳細な養育歴や生活史、恋愛対象、人間関係、リアルライフ・エクスピアリアンス(なりたい性別としての生活を送ること)の実現状況などを聞き取り、性別違和の原因がGID以外の精神疾患ではないか、身体的な治療まで進めた方が良いか否かを検討しなければならない。この段階で、GIDの精神症状に精通した精神科医が少ないことが、第一のハードル。最低2人の精神科医の見解が一致しなければ次のステップに移れないのだから、精神科医の最初の“見立て”は極めて重要である。

 その後、臨床心理士などによる心理分析、乳腺外科や泌尿器科などによる身体的診断の判定を経て、ようやく、身体治療が適切か否かを決定する「性別適合手術適応判定会議(倫理委員会)」が行われる。もちろん、この会議で身体治療に移行することが否決されれば、その次の「内分泌療法(性ホルモン療法)」の承認は受けられないので、これが第二のハードルとなる。

 ここまでの過程をクリアし、ようやく性ホルモン治療が始まるのだが、これにも「最低1年以上」の観察期間があり、ホルモン治療で身体的な変化が得られること、選択した性別に対して持続的・安定的な適合感があること、さらに、カミングアウトが完了して周囲の理解を得られる状況にあることなどが、性別適合手術の条件として設けられている。

 しかも現行の法律では、ホルモン治療は18歳以上でなければ受けられず、性別適合手術は20歳以上であることが前提条件となっているが、GID患者が最も大きな精神的苦痛を感じるのは、身体的な性特徴が明確になってくる2次成長前・後の年代。特に、男女別の制服を着用せねばならず、体育などの男女別授業や、修学旅行など宿泊を伴う行事もある中学・高校生活では、周囲の同性(身体上の)と言動が食い違うことで、いじめや差別の原因になることも少なくない。

 97年に「性同一性障害の診断と治療のガイドライン」の初版を公開し、以降、同ガイドラインの改訂を続けている日本精神神経学会は、「性ホルモン療法の開始可能年齢を条件付で15歳に引き下げること」、「性別適合手術の適応判定を、倫理委員会に委ねるのではなく医療チーム独自の検討によって実施できるようにすること」などを改訂第4版で提言しているが、厚労省の反応は今のところ鈍い。

社会全体が、GIDをはじめとする
性的少数者を理解し始めている

 日本国内で手術を受けるまでの、あまりに煩雑で長い道のりに絶望し、生殖器官に対する手術に対して比較的寛容なタイなどで手術を済ませるGID患者も年々増えている。法的にグレーゾーンの部分があるものの、近年では海外における性別適合手術を、特定活動(医療)ビザ申請の段階からコーディネイトする組織も登場している。

 確かにタイに行けば、FtM(身体的には女性だが自覚している性は男性)患者に対する乳房切除や陰茎の形成、MtF(FtMの逆パターン)向けの豊胸術やS字結腸法(結腸の一部を膣に転用する形成術)などの実績が豊富な医療機関は複数ある。ただし、海外で手術を受ける患者の増加に伴い、合併症や感染症、後遺症などに苦しむ人も増加傾向。

 また、性ホルモン療法は性別適合手術を受けた後も継続する必要があり、その際、副作用の有無や身体状況を観察しながら、薬の量や投与間隔を調整せねばならない。海外で手術だけ済ませた場合、術前のホルモン療法による変化が観察できていないため、適切なコントロールが難しいのだという。

 心理カウンセリングなどの精神科医療の段階で、身体の性的特徴に対する嫌悪感や忌避感を、ある程度まで解消できるケースも少なからずあるらしい。しかし、多くのGID患者は、常に性的違和を感じ続けて、自傷行為やうつなどの精神症状まで発展する恐れもある状態だ。

 東京都や埼玉県では、GIDであることを公表して当選した政治家が誕生したほか、複数の自治体が、同性カップルを「結婚に相当する関係」として認めた。GID患者の家族や本人、友人たちなどによる相談・支援団体も、各地で発足し、家庭裁判所における性別変更の審判も、「子どもがいないこと」から「未成年の子どもがいないこと」へと緩和された。社会全体が、GIDをはじめとする性的少数者に対する理解を少しずつ深めている現在、GIDに対する身体的治療のハードルも、もう少しは緩和すべきではないだろうか。

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コラムニスト

    報告 ID:BsVwDVnesi

    同感です。世界人権会議からの勧告を、完全無視している。国の行政機関と司法が基本的人権を無視するのなら、GIDorLGBTは、国連へ、申し立てるしか、方法がないのではないかと思う。むしろ、地方公共団体に、渋谷区や札幌市に、同性婚を認める動きがあるのは、うれしい。
    いまも、SRS手術が健康保険の適用を認めるような話し合いがあるけれども、その内容を聞けば聞くほど、あきれてくる、要は、日本人の顧客の獲得が目的だった。

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