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コラム

「金魚!」で変わる伯父の表情
高齢者施設の居室で飼育してみる

動けない、が悩みどころ

 10月10日付け本コラム「おじさんがホームで『「金魚!』と言ったなら 高齢化時代を受け止める、とは何か」では、私の伯母が突然他界し独り身となったパーキンソン病の伯父が仙台市内の高齢者施設で、何かいるものを聞いたところ、「金魚!」と言ったことを紹介した。今回はその言葉を受けての私自身の「金魚!」に関する行動報告となる。

伯父の発言を受けた私はその意思を尊重したい、という思いと同時に、金魚の動きは、伯父の「生きる」ことに何かよい影響を与えるかもしれない、と考えた。その思いで勢いよく仙台市市内にある伯父がいる施設内の居室に金魚の水槽を導入しようと思案してみたが、課題は多かった。

伯父は身体が硬直しており、自分で寝起きや移動ができない。車いすに座れば左手はゆっくりと動かすことができるが、認知機能もあいまいな部分もあるから、水槽を設置しても、伯父に全面的に金魚の世話を委ねることはできない。東京に住む私は仙台に行けるのは月一回程度だから、どうしても誰かがメンテナンスをしなければいけない。そこが悩みどころだった。

本物目指して

居室にパソコンを設置し、画面で疑似的な水槽を見せるなら、手間がかからないのではとサンプルを見てみるが、やはりそれはデジタルの世界だった。本物を目指して、市内のペットショップをめぐった結果、設置やメンテナンスを行う観賞魚店に出会った。そのお店曰く、レンタルで福祉施設のロビーで設置実績はあるが、居室は例がないという。

しかしながら、月1度のメンテナンスは月額支払えば可能で、給餌も1か月分をセットした上で、1日決まった時間にタイマーをセットすれば、餌を補充する以外、日常的な管理は必要ない。これならば、施設に迷惑をかけることはないだろうと、施設に「施設の職員に日々やっていただくことはありませんから」と要望したが、施設側は当初「規約ではペットは禁止にしていますが、それは犬や猫を想定したものなので」と困惑の表情だった。

それでも、「内部で協議させてください」との返答を受け、3日程待ったところ、施設の担当者は「是非やってください。私も見たいし、伯父さんがどんな感じになるのか楽しみです」と快諾された。「是非」という言葉は不思議だ。是非、と言われたら、なぜか意気に感じ、心持が違ってくる。施設側も「楽しみにしている」ことに、私のモチベーションも上がる。

 金魚の水槽は30センチ四方の立方体で、浄水装置と温度計、給餌タイマーとライト、砂利と水草などがセットだ。設置の当日、業者さんにその水槽が出来上がっていく模様を伯父は車いすから少し身を乗り出し、興味深そうに眺めている。

田園地帯が住宅地に変わる緒に就いたような風景の中に立つ施設。周囲には高い建物がないから、風と空の中にすっと立っているような印象だ。昼間は日が差し込むその部屋は穏やかなあたたかさに抱かれて、平和な時間は流れているけれども、やはり殺風景だった。ベッドのほかには、カラーボックスと衣装ケース、テレビと冷蔵庫があるだけ。あまりにも寂しかったので、私は伯父の写真を撮影し、その写真をお洒落な額に入れ、飾った。それだけでも、壁面が明るくなったような気がした。

そこに金魚である。これは効果抜群で、尾びれが長く優雅な印象のリュウキン等は真っ赤が2匹と白と赤のツートンが1匹、黒い斑点があるものが1匹の計4匹。浄水器から流れ出る循環した水音、揺れる水草そして4匹の金魚たち。30センチ四方の小さな世界があるだけで、その部屋に命が宿った。そんな感じがした。

設置し終えた水槽を近くで眺めていた伯父は不自由な右手でOKサインを作り、「最高!」とほほ笑んだ。めったに笑わない伯父の、最近口にしたことのない言葉だった。

しかし、直後に涙顔が待っていた。

給餌でくやし涙

金魚を眺めていた伯父は、小さな粒の金魚の餌を自分でやってみたいということになり、餌の入った筒状の入れ物の蓋を開けようとしたが、不自由な手では開けられず、顔をくしゃくしゃにさせて悔しがった。いくつかの動作を試してみたが、不自由な手の動きでは、給餌は難しそうで、やはり給餌タイマーで自動給餌にしようと持ち掛けたが、自分でやりたいという気持ちから、顔をくしゃくしゃにして悔しさと悲しみを訴える。

 知恵を出そう、と考えて、伯父の手の動きに合わせて餌が出来るように調味料専用の容器などを使って給餌の工程を確認し、やっと出来るようにすると、伯父は満足そうな表情となった。金魚の設置を「観賞用」と捉えていたが、やはりそこに生き物がいると、世話をしたくなるものなのだろう。それは結果、伯父の生きる活力につながっているように思う。

今後は私が月一回の訪問の時にチェックし、メンテナンスは設置していただいた仙台市太白区緑が丘の「アクアアートギャラリー」(野澤安彦代表)にお願いしている。施設側と業者、そして本人の意思と家族、金魚を介して思いを確かめ合えた時、介護の形や質もよい方向に変わるのではないだろうか。

居室に金魚。もう少し広まってもよいかもしれない、と思う。

(了)

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