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コラム

発達障害児童の親を惑わす
ネット上に溢れる“疑似科学”情報の罪悪

 程度の違いこそあれ、世の母親たちの多くは、自身の子育てについて何らかの不安や疑問を抱いているものだろう。特に、「発達障害」の診断を受けた子どもの母親にとって、障害の改善に少しでも有益と思える情報が目の前にあれば、真偽の確認もそこそこに飛びついてしまうのが、人の情というものではないだろうか。そうした親の切なる思いを悪用し、根拠が乏しい(あるいは皆無)“疑似科学”系の療養器具や健康食品等を拡販する動きが、ネット上に広がっている。

「ビタミン・ミネラル不足」と聞くだけで
不安になる日本人の気質

 先ごろ、本キュレーションサイトでも取り上げたのが、石川県の「ハッピーミネラル」という有志団体による、『食事にミネラルを取り入れることで、発達障害や食物アレルギーの改善につなげる』との活動。団体の主宰者は、檜の酵素浴やアロマセラピーを行う店舗を運営している女性であり、この団体が主催する講演会で講師を務めたのが、島根県にある療育支援事業所の園長。講演会の紹介文には、『ミネラルを豊富に取り入れた食事改善で、発達障害のお子さん達が次々と断薬』、『苦しい過敏性がミネラルたっぷりな食事で改善』など、障害を持つ子どもの親であれば、つい飛びついてしまいそうな文言が並んでいる。

 ミネラルの必要性を否定するつもりは毛頭ない。例えば、土壌に含まれるセレンが非常に少なく、しかも菜食中心の食文化だった東部シベリアや中国の東北地方では、旧ソ連時代から「カシン=ベック病(セレン欠乏症)」などの風土病が報告されていた。近年は、亜鉛不足による成人の味覚障害や皮膚障害も、国内・外で問題視されている。

 ただ、それらは、極端な偏食を長期間続けたり、過度のダイエットで総栄養摂取量が不足している、あるいは、特種な風土により特定の栄養素が摂れない人たちに発生する障害であり、現代の日本で、常識的な質と量の食事を口にしていれば、心身の健康に大きな影響が発生する心配は無いと考えられている。

 そもそも、ひとことに「ミネラル」と言っても、厚生労働省が「健康増進法」に記載しているだけで計13元素(亜鉛、カリウム、カルシウム、クロム、セレン、鉄、銅、ナトリウム、マグネシウム、マンガン、モリブデン、ヨウ素、リン)あり、さらに「必須ミネラル」となると硫黄、塩素、コバルトも加わり、それらが含まれる食物体系も含有量も、それぞれ異なっている。「ミネラル」のひと言で、まとめて語れるシロモノではないのだ。

 にも関わらず、漠然と「ミネラル豊富」と謳っただけで、発達障害や食物アレルギーが改善する…と信じる親が多数いるのは、脚気(かっけ)が結核と並ぶ“二大国民亡国病”とされていた日本ならではの事情と言えるだろう。詳細な説明は省くが、我が国では大正時代半ば頃まで、毎年1万人前後が脚気で死亡しており、その発症原因がビタミンB1の欠乏であることが判明して以降は、国をあげてビタミン摂取を励行してきた。現代でも“ビタミン信仰”は、人々の間に根強く残っている。

 各種ビタミン研究に伴ってミネラルの存在も明らかになったことで、「ビタミン・ミネラル」がセットのように語られ、「ビタミン・ミネラル不足=疾患」のイメージが、強く定着したものと思われる。

個人差が大きく分類も複雑な障害を
「ミネラル」だけで改善できるのか

 栄養の偏りが指摘される現代の食生活において、「ミネラルを豊富に取り入れた食事」は、健康増進には有用かもしれない。が、それと発達障害の改善とが結び付くとは、到底考えられない。

 ご存知の通り発達障害は、生まれつき脳の一部機能に障害があることで、周囲との人間関係や社会関係がうまくいかなくなる障害のこと。離乳食以降の食事が、障害の原因となることは考えにくい。しかも発達障害のタイプは、よく知られている自閉症や注意欠如・多動性障害(ADHD)の他にもアスペルガー症候群、学習障害 (LD)、チック障害などがあり、同じ障害児童同士でも、個人差が非常に大きいのが特徴。

 確固たる治療法も現段階では整備されておらず、子どもの症状に合わせた環境調整と、必要に応じた抗うつ薬や抗不安薬、ADHDに対してはメチルフェニデートやアトモキセチンなどの精神刺激薬の投薬が承認されているレベルだ。食事内容の変更程度で、易々と「障害の改善」や「断薬」が実現することはないだろう。

 ちなみに、虐待や育児放棄などの環境下で育ち、発達障害と同様の行動パターンが現れている児童に対しては、食育分野の取り組みが一定の効果を上げる場合もあるが、日本の場合、それらの児童は「発達障害」には分類しない。つまり、前述の団体が展開している活動は、医学や科学とはほど遠い、むしろカルト集団的なものと考えた方が良いだろう。

 …にも関わらず、ある地方新聞は、同団体の活動を好意的な記事で紹介していたのだから、おめでたいとしか言いようがない。

異端の医師の持論に群がる
数多くの悪徳業者たち

 前出の「ハッピーミネラル」に限らず、「発達障害を食事で治す・改善する」を謳う団体は、意外なほど多い。中には、団体主宰者の講演会ばかりでなく指導者養成講座(もちろん有料)も行い、一般社団法人として登記されている団体もあるほど。

 同趣旨の書籍も非常に多く、そのほとんどが、脳に障害をもたらす主因はグルテンやカゼイン、牛乳や乳加工製品、白砂糖などで、それらの食材を避けることで子どもの発達障害が…と述べている。特に牛乳に関しては、「牛乳のカルシウムは逆に体内のカルシウム量を減らす」、「牛乳を飲み過ぎると骨粗鬆症になる」、「アトピーや花粉症の患者が急増した第一の原因は学校給食の牛乳」との説を信じ込んでいる著名人も少なくないらしい。

 そうした説の出元を探っていくと、多くの場合、異端の持論を展開している医師の名前が出てくる。まず、「牛乳有害説」の発端と思われるのは、主に牛乳及び乳製品除去を論じた「病気にならない生き方」という著作がミリオンセラーとなった、外科医の新谷弘実氏。「一定以上のビタミンやミネラルを摂取することで精神疾患は治せる」、「発達障害や知的障害などは乳幼児ワクチンによるもの」説の発端と思われるのは、自らを“キチガイ医”と名乗る内科医の内海聡氏。同じく「乳幼児ワクチン有害説」を主張し、「乳幼児のワクチン接種を誘導する母子手帳は、アメリカの酪農協議会が製作したもので、日本人の優秀さを恐れたアメリカが日本を弱体化させるために導入したもの」という奇妙奇天烈な論を述べているのが、小児科医の真弓定夫氏。

 医者では無いまでも、発達障害とミネラル不足とをこじつけて論じている書籍の著者は、ほとんどが保育園や幼稚園、療育園等の勤務経験者。つまり、一般の母親たちからは「先生」とか「(育児の)専門家」と見なされ、発言の影響力も相応に大きい人物ばかりである。

 「異端の論」が、必ずしも悪いわけではない。“信じるものは救われる”の言葉通り、科学的根拠や統計的な裏付けが無くても、それを信じる人だけが粛々と語り合っているうちは罪も無い。ただ、発達障害の子どもを持つ親の、ワラをもつかむ思いを悪用し、数え切れないほどの商品や書籍がネット上で販売され、各種講演会のチケット(もちろん有料)がたちどころに完売する現状に対しては、ある種の薄気味悪さを感じずにいられない。

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