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コラム

「働きやすい」就労移行を目指して
義務感でなく使命感で支援の質を確保する

広く浸透した事業

約3年前、私が就労移行支援事業所シャローム所沢を設立してほどなく、老舗の医療系出版社「医学書院」の編集部から精神疾患に関する情報誌「精神看護」に連載を頼まれた。編集者が付けた連載タイトルは「就労移行ってなんだ?」。「精神看護」の読者である精神疾患の最前線で働く看護師はじめとする支援側や当事者は、関りがない限り、「就労移行」の仕組みへの理解が進んでいない、いや「知らない」と編集者は私に説明して、連載は始まった。 それから3年以上経過し、「就労移行」は、当事者は勿論、企業側も障がい者の採用担当者関係の現場では広く着実に浸透してきたが、精神疾患とは無関係な世界に飛び出すと、「障がい者雇用?なんか大変そう」との反応で、まだまだ認知はされていない。

中と外。福祉とそれ以外。当事者と当事者ではない人たち。この2つの分断を認識しつつも、融合はゆっくりと進み、その接点に就労移行という事業は成り立っている。そして、もっと就労移行の機能を発揮し、確実な就労定着を目指して、就労移行と企業との融合を図るべき時期に来ている。

今年4月から法定雇用率が2%から2.2%に上昇し、障がい者1人の算出基準も週20時間の労働(一部制限あり)に緩和されることに伴い、政策上は障がい者が「入りやすく」、企業が「受け入れやすく」なっているのは確かだが、重要なのは当事者も企業側もともに「働きやすく」なるためへの取り組みだ。当事者はもちろん、企業側にとっても「働きやすさ」を目指していければ理想である。 そんな理想を目指しての就労移行の役割を考えてみたい。

理想の3段階ではあるが

この就労移行支援事業所の役割を一般的に説明すると、「障害者総合支援法に定められた障害福祉サービスのひとつである『就労移行支援』を提供する事業所」であり、「障害のある方に、仕事をする上で必要なスキル等を身につける職業訓練のほか、面接対策などを通して就職活動をサポート。また役所やハローワーク、病院等の関連機関と連携しながら、個々の適性に合った就職を目指す」とし、「就職後には職場への定着支援もあるため、仕事が長続きしにくい方にも安心してご利用いただける」とおいうのが、私の施設の説明だ。

つまり「就労に向けたスキルを身に着けて」「就労活動のサポートをし」「就労後の定着支援を行う」という大きく分けると三段階の支援があるが、実際の支援は細に入り、多様で、疾患や障がい等、生きづらさを抱えた中で、社会に向けて旅立とうとする人との関わりあいは、全人格をかけた真剣勝負となる。

前述の3段階を確実にステップアップさせて就労させることをイメージして制度は出来上がり、運用上もその流れの中で就労・定着するのが理想であり、この理想をガイドラインとしているところがある。

しかし現実は甘くはない。人の健康状態はいろいろな要因で左右するし、人の心は複雑だ。敷かれたレールをまっすぐに誤謬なく進むことはできないのだ。そのことを知りつつ、孤立化を防ぎ関わりあい続けるのが、私たちの仕事である。

実績で淘汰の時代に

この就労移行支援事業所は、全国で2952事業所(2017年厚労省調べ)あり、利用者は28637人(同)。2008年の障害者総合支援法の施行によりスタートした就労移行支援は年々と事業所が増加し、制度を利用して「移行」を経て、企業就労を増加させてきた。この制度の趣旨は障がい者が、社会の中で生きがいをもって生きていくために、就労というステージの可能性を広げ、最終的には自立した個人として給与を得て、税金を支払う、という生産者側への転換を目指すもので、社会保障費の軽減を目指すことと、各当事者の生きがいをめざす、という二兎を追う政策の一環だ。

新制度の中で確実に実績を上げている事業所がある一方で、旧制度から継続的に支援活動を行ってきた福祉施設の中では、「就労させる」という方向に転換できない例もある。

結果的に就労に結び付かず、報酬の減算になるケースもある。最近では就労実績のある事業所は利用者を集めて収益性も向上し、加算され、実績のない事業所は減算されて淘汰されていく中にある。実績のない事業所は、怠慢かもしれないし、何か事情があるかもしれないが、とある公的な研修では県の担当者が実績ゼロの事業所を「存在する価値はない」とまで言い切って、是正を求めているから、もはや「あるだけの事業所」は必要ないとの認識だろう。

しかしながら、実績を積み上げるまでには努力が必要で、その前提として、精神的な不安な状態から就労に向く状態を作らねばならず、この状態にする道のりは苦難の連続だ。この前提を整えるにはそれなりの労力がいるため、事業所によっては「準備が整った人」のみを通所対象として厳正している。われわれのように、本人の希望があり、受給者証を発行する自治体が認めれば、広く受け入れていこうというタイプのところは、まずは前提を整えるとこからスタートすることになる。

1つ1つのケースについては、このコラムの中で紹介して、ケーススタディとして考えていきたいと思う。私たちとして、当事者とともに奮闘してきたことは、何かに役立てばと言う思いだが、ふと気づけば、なぜ奮闘できたのかを考えると、私やスタッフが支援の仕事に対して、「義務感」ではなく、「使命感」で臨んだからこそ、ではなかったかと思う。

質の高い仕事のために

「どんな所見を書けばよいですか?」。

通所者が就職するにあたって、就労先に提出しなければいけない「所見」について、担当医師が私にたずねてきた。この医師は数週間に一度面談し薬を処方するだけの自分よりも、毎日顔を突き合わせ様子を知っているわれわれのほうが正確でタイムリーな情報を知っていると分かっている、と考えて、私とも話をし、「適正な」所見を出そうとする。

それは、当事者の身体的な回復と社会的な回復を願う気持ちが重なり合って、医師とソーシャルワーカーという立場を相互理解して成り立つ親和的なコミュニケーションである。この時、私と医師が交換する「情報」は、就労の現場で活かされ、この通所者の「働きやすさ」につながっていくのだ。

われわれ福祉の現場でも、医療の現場でも、「記録」がつきまとう。ケース記録やカルテ記録、当事者の今を記録することで処理し、それが報酬につながる。

しかし記録とは、人から離れた記号であることを再度認識する必要があるというのが私の立場だ。それら記録は、当事者の今という有用な情報であり、情報は活かすことを必要とする。当事者の表情も言葉のやりとりも、すべてが情報として受け止める、その小さな積み重ねの中に、情報を活かそうとする思いが、支援の質につながる。

目の前の出会いに喜び、情報を活かそうとの使命感を持って、就労移行に望みたい。

本コラムでは、就労移行のマクロ及びミクロの視点から事例を示し、紹介して、考えていきたい。

(了)

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