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コラム

「ケア」と監視の両立は成立しない
相模原事件再発防止の改正案は忖度か

抜け落ちた思想

2016年7月に神奈川県相模原市の障がい者施設で起きた殺傷事件を受けて、再発防止などを目的に厚生労働省が提出していた精神保健福祉法改正案について、同省は今国会での提出を断念する方針を固めたという。財務省による学校法人「森友学園」の決裁文書改ざんや働き方改革をめぐるデータ不正などの問題で国会審議への信頼性が揺らぐ中、そもそもこの改正案は必要だったのか、厚労省の官邸への忖度ではなかったか、の疑念も出てきた。

同法案は障害者団体や野党の批判が根強く、精神障がい者と向き合う私としても、支援に治安機関を入れるには違和感を覚えていたから、さらなる熟議が必要だと思われる。

しかしながら、今回の法案提出の見送りは、「政権が最重要法案と位置付ける働き方改革関連法案の審議にも影響しかねないと判断した」と毎日新聞は報じているが、そもそもの法案として、その趣旨や成り立ちには、厚労省が長年培ってきケアなる思想が警察の「介入」によって、弱められているから、これも官邸主導の動きを察知した事件当時の塩崎恭久前厚労相の肝いりで、厚労省の忖度で作り上げられた、というのが個人的な見方だ。

警察連携に反発

 今回の法案は相模原事件で殺人罪で起訴された元職員の被告が事件前に措置入院しており、退院後の支援が不十分だったとの指摘を受けての策定だった。改正案は、自治体が医療機関と協力して措置入院した患者に個別の「退院後支援計画」を作成することとし、退院後は自治体や医療機関のほか警察などが連携する仕組みとしていた。

この法案は、当初「二度と同様の事件が発生しないよう、以下のポイントに留意して法整備を行う」と趣旨説明したことから、野党は反発し、厚労省も上記の部分を削除することで対応した。障害者団体も「患者の監視強化だ」と反発したが、実際、厚労省内でも異論があったと伝え聞いているから、厚生行政にあって、治安機関をその仕組みに入れることの抵抗感があったのだと想像がつく。

 この法案は昨年2月に提出され、参院から審議入りしたが、衆院では審議出来ないまま、昨年9月に安倍晋三首相が衆院を冒頭解散したことで廃案、今国会に持ち越される予定だった。

 毎日新聞によると、「同省は今国会以降も同じ内容の法案は提出しない考え」とのことだから、後任の加藤勝信厚労相も不正データ問題も抱え、法案を無理強いするのは困難だと判断したと同時に、そもそも塩崎前厚労相による法案の推進が正しかったかも疑問符が付く。

流れは地域モデル

日本の精神保健の歴史は近代国家の成立とともに社会防衛のための治安対策に重点を置く医療介入の構図で進められてきた。1995年に精神保健福祉法が成立し「精神障害者等の自立と社会参加の促進のための援助」が謳われ、「障害者プラン―ノーマライゼーション7か年戦略」により3万人を精神科病院から社会復帰施設に移行させる目標が設定された。このプランの実現のために1997年に精神保健福祉法によりPSWが精神保健福祉士として国家資格となり、社会復帰の相談に応じることになった。

2002年以降は障害者手帳や通院公費負担(自立医療制度)の申請窓口は市町村となり、居宅生活支援事業が市町村に変わった。同年は「精神分裂病」の病名が家族会からの要望などにより、診断名を「統合失調症」とし、その後政府やメディアも追随し呼称を変更した。

2004年には「精神保健医療福祉の改革ビジョン」で、「入院医療中心から地域生活中心へ」の基本方策を決定し、そのために「国民理解の深化」「精神医療の改革」「地域生活支援の強化」を柱にして、具体的には10年間で約7万人の退院と病床削減を目標とした(結局、目標は未達成)。

そして2006年に障害者自立支援法が施行され、2013年に障害者総合支援法に改正され、2016年には障害者差別解消法が施行された。

つまり95年以来、厚労省の掛け声で世の中も「社会モデル」に進んでいるのは周知の事実である。この流れにあって、支援に警察を入れるのは、やはり唐突感がある。

現場から再発防止を

 相模原事件の犠牲者や遺族を思えば、強力な再発防止を求めるのは当然であろう。

 最も強力な再発防止は何かを考えたい。人を排除しようとする思想や行動を作り出す社会の在り方から、思想や信教の自由を尊重しながら、人に危害を加えるという行為に至る心理的プロセスを、ソフトな関わりで危機を回避することができないのか。

 私も自分の立場の中で、自殺や犯罪、加害の妄想に関わることは日常的で、その仕事は非常にタフなものであることは分かっている。私のような通所型施設のソーシャルワーカーの場合、医師や看護師と違って関わるフィールドは一般の方々が不通に暮らす社会だから、社会の中にあって関わり、そして社会的に治癒され、心が平穏になることを願い、行動している。

おそらく全国の心あるソーシャルワーカーもそうなのだと思う。今回の法案は精神科医の声を聞きながら策定されたが、私としては、日々疾患者に関わるソーシャルワーカーの声をより多く受け入れ、その現場の声を積み上げながら、有効な施策を考えてほしいと思う。

(了)

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