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コラム

精神疾患者に「働きやすい」対話を
20時間を企業は弾力的に対応しては

希望のプロセス

民間企業の障がい者雇用の割合を定める法定雇用率が4月から2・2パーセントに引き上げられ、初めて「精神障害者」が明記されたことによって、企業に精神障がい者の雇用を義務付けることになった。同時に、雇用率算定の基準となる労働時間が週20時間労働で1人とカウントする緩和策がとられ、企業にとっては受け入れやすく、障害者にとっては、就労へのハードルが低くなったと言えるのだが、この緩和策は、企業の運用、支援者の活動を通じて、より有効な措置としなければならないだろう。

厚生労働省で週20時間の決定がされた昨年末から今春にかけて、徐々に週20時間勤務の求人が多くなってきている。しかし、週20時間は時給換算で、この月給だけでは首都圏で自活するのは不可能だ。私の就労移行支援事業所でも、最終目標が「就労→自活」の方も多いから、20時間をスタートとし、週30時間、40時間と段階的に勤務時間を延ばし、体調も整え給与を上げていくというプロセスを提示し、自活という「希望」を具体化することにしている。

企業のスロースタートも

企業側でも、私が定着支援に関わる企業は、1日5時間で週二回勤務の週10時間からスタートして週20時間をゴールにするところもある。これも、働く意欲はあるものの薬の影響で体が思うように動けないが、緩やかなペースを維持することで、パフォーマンスを発揮できる精神障害者にはありがたい措置である。

東京都内に工場を持つ印刷関連企業の人事責任者は、6月のハローワークへの報告を前に雇用したいと、3月末になって駆け込みで求人を出すにあたり、求人内容を相談してきた。その際「1日4時間、週5日勤務の20時間」という条件設定を「役員会でも承認された」と胸を張り、「毎日一定の時間を来ていただくことで、こちらの対応やオペレーションがしやすくなる」と説明した。

企業側が「仕事をしやすくする」のは当然だ。生産性や効率性を考えれば正しい決定ではある。しかし、働く側から考えれば、弾力的な運用はできないか、と問うてみる。「働きやすさ」の目線で、「1日5時間勤務で週4日にして水曜日を休日にする」との運用も可能にすれば、週の中日に休めることで安心する精神障がい者もいる。

つまり、週20時間の枠組みの中で、働く障がい者の特性や要望に合わせてアレンジしていく、という決定を促し、その条件設定は、雇用される障がい者との対話を通じて決定していく手法である。ここで発生するのは、障がい者とのコミュニケーション。これこそが企業にとって財産となる。

対話と権限

疾患のない健康体の人が「週20時間労働を難しい」人を想像するのは難しい。理解できないから、と言ってそっぽを向くと、当人を孤立させてしまうことになる。例えば統合失調症の方で言えば、寛解状態にあるにせよ、薬を飲んでいれば、その薬は人の正常の機能を変化させる役割を発揮するから、当人の体には気だるさなどの変調があるはずで、気分的にも動けないもどかしさもあるだろう。同時に睡眠の質が悪いことを伴うことも多い。睡眠の質が悪いまま、週5日勤務にしてしまうと、疲れが溜まった週末に体調を崩し、週明けに出勤できない、という事例も見てきた。

会社で会ったその瞬間は元気にあいさつしていても、体調が変化した途端に休まなければいけない時もあるだろう。その突然にも寛容な気持ちで適切に対処するには、日常のコミュニケーションが重要であり、当事者の状態を当事者自らが言葉にしてもらい、それを周囲も知る必要がある。もし、当事者が自分から話せない環境であれば、それは居心地の悪い職場の典型だ。

 前述の人事責任者は「週の中日の休み」の話を受けて、「それでは稟議とってみます!」と意気込んだが、大事なのは障害者雇用において、最も障害者に近い現場の人に責任と権限を持たせることであろう。障害者が近い存在の人とコミュニケーションがとれ、その担当者がある程度の権限を持って接していることで、安心にもつながる。

定着支援の利用

 この権限については、実は難しい。企業は権限には責任を伴うから、問題発生時のリスクマネジメントを考えなければならない、と心配するだろう。精神障がい者との関わりの経験が浅い人にとっては、新しい世界だから、「リスク」対応として考えてしまう精神性は真面目さゆえに仕方ないかもしれない。担当者がそんな思想であれば、企業文化も同様であると想像する。

 以上の取組を面倒くさいとして、未達成の雇用率に応じた1人につき月5万円の障害者雇用納付金で済まそうという企業も少なくない現実もある。

 しかし、お金で済ます時代ではなくなっている。同時に「障がい者を多く雇用している」と威張っている時代も終わりに近づいている。平均在職期間が身体障害者、知的障害者に比べ精神障害者が低いとの統計を受け、精神障害者の就労を拡大させるだけではなく、定着させることが課題だとして、厚生労働省も今春から施策を講じ定着支援に力を入れることになっている。

企業が利用するのが、定着支援サービスである。精神障がい者の支援を専門としている機関などが入社から就労が定着するまでの一定期間、当人と企業の担当者らとともに話し合いながら定着を確実にする仕組みだ。

企業側が抱え込むのではなく、支援のプロとともに、障害者の働きやすさを考え行動していく―企業側が障がい者の特性に合わせることにシフトチェンジした時、結果的にその企業の従業員誰もが働きやすい環境が整う、と思う。そんな企業が増えてほしい。

(了)

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