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コラム

「身体拘束で提訴」から始まる未来
14歳への措置は正当だったのか、から考える

精神的被害で提訴

身体拘束された記憶をたどり、その話が口から語られるとき、誰もが下を向く。悔しく、悲しく、切ないその日、その時の場面を思い出すときの表情は暗く、悲しげだ。人によっては、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の診断を受けてもおかしくないほどの様子を見せる人もおり、その過去によって未来を描けずに苦しんでいる人もいる。

聞いている私も、当事者の過去に思いを寄せ、苦しくなる。同時にこの国に漂う「自由」「人の尊厳」に対する鈍感さを思う。

身体拘束については、問題が起こるたび、日本の異常な基準等が指摘されているが、身体拘束をめぐり元患者がこのたび、病院を運営する法人に対し精神的な被害を受けたことによる損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。

朝日新聞によると、原告は「14歳のときに摂食障害で入院した病院で77日間も不当に身体を拘束された東京都在住の女性(24)」で、記者会見した女性は「殺された方がましだと思うぐらいだった」と話した。提訴の理由については「非人道的な扱いで肉体的・精神的な苦痛を受け、人生を壊された。私のような被害者を出してほしくない」と伝えた。

拘束の死亡と長期入院

 昨年5月、神奈川県の病院で躁うつ病(双極性障害)と診断されたニュージーランド人の英語教師ケリー・サベジさんが閉鎖病棟に入院し、足、腰、手首を拘束されてベッドに寝かされ、心肺停止状態で死亡した事件があり、遺族が声を上げたことで、欧米に比べ日本の身体拘束に対するハードルの低さ、そして拘束時間の長さ浮き彫りにした。

 今年2月にはNHKのETV特集「長すぎた入院 精神医療・知られざる実態」で福島第一原子力発電所事故をきっかけに近くの二葉病院が閉鎖されたことで、39年も長期にわたり入院していた元患者をはじめとする長期入院の実態があらためて知られることになった。番組では長期間入院していた方々がその後、転院をした後に退院し地域で暮らす様子がその豊かな表情とともに映し出されており、彼ら自身が話す印象的な言葉が「自由はいい」であった。

 身体拘束にしても長期入院にしても、それは医療という権力が人の「自由を奪う」行為には違いない。しかし医療の権利が「必要ある」ならば、それは必要あるものになってしまう。それだけに医療の力は今も強いし、人の自由を奪うことは「治療」目的にすれば簡単だ。

自由を奪うとは

報道によると、今回提訴した女性は2008年5月に都内の精神科に摂食障害と診断され、19日に女性も同意して入院。「入院ベッドから離れてはならないと指示され、音楽を聴くことも、外部との電話や面会も許されなかった。病室の簡易トイレで看護師の立ち会いのもとで排泄(はいせつ)していた」とされ、「厳しい行動制限に納得できず、女性は5月24日に抗議のため点滴を自ら抜いた」ため「治療を拒絶した」などの理由で、「本人の同意がなくても保護者の同意で入院できる『医療保護入院』に切り替えられた。帯のような太いひもで両手両足と肩をベッドに縛り付けられたうえ、栄養をとるために鼻からは胃へチューブが、尿道にはカテーテルが入れられ、おむつをされた。入浴もできなかった」という。

原告からだけの言い分とはいえ、「14歳の摂食障害」の患者にこれほどの厳しい行動制限が必要だったのだろうか。どのようなプロセスで決定がなされたのか、

この患者の足の拘束が解かれたのは38日目、拘束解除は77日目。両親と面会を許されたのは入院から4カ月余りたった9月26日で、退院は医師に強く希望した結果、11月21日だったという。年齢から考えると、トラウマがその後の人生に大きな影響を与えることは想像に難しくない。

「就労」で蘇る悪夢

 精神疾患を抱えながら就労しようとする方々を支援する毎日に、当事者も支援者もぶち当たる壁が「権威」である。それは突然やってくる。職場の上司や企業という権威である。就労した人は従属関係を感じ、人によっては「強いられた」感覚となり、過去の「自由を奪われた」悪夢が蘇る。

フラッシュバックしてしまう患者にとって、「タフ」な社会を生き抜くことは辛い。同時に身体拘束という医療がその人に残した過去は、数年経ても消えない傷となる可能性がある。

 この患者は「退院後は頭痛やめまい、不眠の症状が出たほか、拘束される夢を見て跳び起きたり、フラッシュバックから逃れるためにカッターで腕を自傷したりするなど、精神状態が著しく悪化」して、別の病院でうつ病と診断されたという。

この精神的苦痛に対しての提訴に、どこまで双方が「事実」をもとに主張し、実態が明らかにされていくのか。「摂食障害の14歳の少女」に対する治療として正しい判断をしていたのか、おそらく欧米では異常と映るであろう今回のケースを裁判所がどのように判断するのかも注目したい。

勿論、身体拘束が必要な状況になる修羅場に携わる医師や看護師、ソーシャルワーカーに敬意を表しつつ、長期入院や身体拘束などについて、人の尊厳と自由を守る社会のために、医療サイドに頼るのではなく市民ひとり一人が知恵を出していく時期に来ているのだと思う

(了)

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