精神科ポータルサイト サイキュレ - Psychiatry Curation

精神科医療関係者様の会員登録をお待ちしております。  新規会員登録  ログイン

コラム

「発達障がい」「障害者施設」を独り歩きさせないで
新幹線殺傷事件の加害者報道が惹き起こす二次被害

「発達障害」をなぜ?

 6月9日に神奈川県を走行中の東海道新幹線「のぞみ265号」の車内で3人が死傷した事件で、22歳の男性加害者に関する情報をめぐり、メディアの微妙なスタンスの違いが浮き彫りになっている。「発達障がい」を強調するテレビメディアや、入院歴を明記する新聞社「障害者施設」の表記とともに加害者彼には「障害」をにおわす新聞社等―。

疾患や障害が事件との因果関係が分からないまま、疾患や障害を報道することによる「多くの二次的被害」を考えると、メディアはその取扱いに慎重になるべきなのだが、まだまだ勢いで根拠のないまま「障がい」「疾患」を取り上げる報道が目立つ。特に「二次被害」を受ける立場にいる方々との日々過ごしている立場からすると、それは切実な問題だ。

特にテレビメディアでは、フジテレビの情報番組「Mrサンデー」の宮根誠司氏が「発達障害」のクリップを前に加害者の犯行との結び付ける印象を与え、ネット上では批判が集まった。それは、番組はもちろん、宮根氏の見識も問われることになる。

新聞は慎重と無自覚

 新聞は、毎日新聞が「容疑者は両親の元を離れ、県内の生活困窮者の支援施設で暮らしながら、定時制高校に通った。卒業後は機会修理会社に就職したものの、人間関係を理由に退職した。2016年4月ごろから同県岡崎市内の伯父方で暮らしたが引きこもりがちで、今年1月、行方を告げずに家を出た」(6月12日)と説明し、抑えた表現に終始した。

朝日新聞は「昨年11月には同市の障害者就労支援事業所で仕事を始めた。リサイクル品を磨き、段ボール箱に詰めるのが主な業務。事業所の代表は『仕事はまじめに取り組んでいた』と話す」(同)と伝え、読売新聞は「容疑者が岡崎市で昨年末まで勤務した障害者就労支援施設によると、『ホームレスになりたい』と言って退職したという」(同)と書いた。この情報により、加害者が障害のある可能性を示すことになるが、その障害について書かれていないのは配慮なのか、取材不足なのかは不明だが、読者が「どんな障がいなのか」という想像だけが膨らむだろう。

日経新聞は加害者について「『人と接するのが苦手』で、アルバイトは長続きせず自宅でパソコンや読書をして過ごす日が多かった。『俺には生きている価値はない』『どうせ死ぬ』と自殺願望を口にすることが増え、昨年、精神科病院に一時入院したこともあったという。伯父は『人を傷つけるなんて信じられない』と言葉に詰まった」(同)と記した。

この精神科通院の話と自殺願望との因果関係も不明で、やはりフジテレビの「発達障害」と同じく無自覚に、そして簡単に「精神科」を使っている印象を受けてしまう。

危機感からの声明

「生きていくことができる社会のしくみをつくること。そのために地域で活動するさまざまな人たちと連携し、科学的に根拠のあるサービスの普及に貢献すること」を使命とするNPO法人地域精神保健福祉機構はメディア活動も行う団体だが、いち早くマスメディアに対し以下の声明文を出した。

「この事件で逮捕された男について、一部報道では、『発達障害』や『自閉症』との診断名や、精神科入院歴などが報じられています。このような特定の疾患や障害、精神科入通院歴に関する報道に対して、私たちは、偏見の助長につながる問題報道であると深刻に受け止めています。今後の裁判での動向もわからないのに、警察発表のままに速報で報道を行ったためだと思われます。そのため、ネット上でも偏見の声が上がっていることに私たちは非常に懸念を持っております。このまま精神障害者を排除するような世論形成、行政の動き、立法府の動きに報道機関が加担しないことを望みます」

迅速な声明文の発表は2016年7月の相模原事件の反省があるからだ。加害者の精神疾患の疑いと措置入院歴の報道を受ける形で、政府は「治安維持」を目的にした措置入院の見直しが盛り込まれた精神保健福祉法改正を提起した。改正案は衆議院の解散により廃案となったが、精神保健福祉法の趣旨を逸脱した法改正が簡単に提起されることに、関係者は驚き、今回も同機構は敏感に反応したのだろう。

「いや違う」って言えるまで

 心の不調を感じた時、人は休むべきあり、必要ならば病院でしかるべき措置を受けるべきである。ストレスの多い社会では、それは気軽な行為になりつつあるし、気軽であるべきだ。その流れに棹差すことになるのが、これらメディアの無自覚な報道だ。

 先ほどの声明に言葉を借りれば、「現在の報道では、精神疾患について、事件との関わりを読者・視聴者に強く想起させ、それを原因と受け止めてしまったり、精神疾患を持った人は「怖い」「危険」「何をするかわからない」「社会から排除すべきである」「監視の対象にするべきだ」といった偏見・予断を助長させてしまいます」となる。その結果、発達障がいの方々が「日常生活に生きづらさを感じながら生活して」いるのに加え、報道により「ひきこもりや社会的孤立につながる原因」となっていることを指摘し「さらに社会の中で肩身の狭い思いを強いられることになりかねないと危惧」している。

 報道で疾患や障がいの標記に対し違和感を覚え「いや違う」と普通の言えるまでに一般のメディアリテラシーを高めていければ、それは疾患者や障がい者にとっても、少しだけ生きやすい世の中なのだと思う。

  • 475人見ました
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ページの先頭へ

コラムニスト

    ページの先頭へ

    facebookコメント

    ページの先頭へ

    関連コラム

    ページの先頭へ


    Top