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コラム

「特別扱いしない」前にコミュニケーション改善を
障がい者雇用の定着向け水平型の目線で

特別を口にする前に

 今年4月に就労移行支援事業の診療報酬の改訂が通達され、障がい者を「就労をさせる」だけではなく「定着させる」ことにも注力しなければならない状況になっている。就労への取り組みに日々追われる中で、定着支援も加わり、各就労移行支援事業所は大変な思いをしているだろう。かく言うわれわれも、定着支援が大事なのは分かって取り組んできたつもりだが、それが制度化されると強迫観念にも似た心境になり、スタッフが息切れしないか心配だ。

 定着支援の大変さは、企業という相手がいて、その相手が「福祉」の世界とは別世界だから、どうしても生産性や効率性を優先する中での対応となるケースが多い。障がい者雇用をめぐり、企業から最近よく聞くのは「配慮はしますが、特別扱いはしない」という発言だ。

 病状は人それぞれ違うから、配慮の仕方も様々である。そこに「特別」という考えを持ち出すこと自体、少々違和感を覚えてしまう。その人に合った配慮をすればよいだけで、特別はいらない。いらないから、敢えて口にする必要はない、と考えるが、言うことで何か過大な要求があった場合のリスクヘッジのつもりなのだろう、と理解する。

 そんなリスクヘッジよりも、私が職場でお願いしているのはコミュニケーションの改善である。常に意思疎通ができる状態にしておくことが、最大のリスクヘッジになる、という考えだ。

掃除業務での不満

先日、福祉施設の掃除業務に就職した広範性発達障がいの男性が、掃除の指示を出す責任者の見解に納得がいかず、自分の意見と責任者のどちらが正しいのか、実際に掃除をしてみて客観的に判断してほしいという。私はマスクにエプロン、ゴム手袋の出で立ちで、付きっ切りで掃除を行ってみた。

男性用と女性用の複数のトイレを隅々まで磨き上げ、職員の更衣室のロッカーや壁、床、大きなフロアのモップ掛け―。

真剣にやればやるほど骨が折れる作業の中で、完璧主義のこの男性は黙々と仕事をこなし、そして与えられた場所を磨き上げていく。その仕事ぶりに感嘆しながら、男性の言い分を聞く。男性の納得いかない指示の1つがモップ掛けのやり方だった。

広いフロアだから、効率よく、そしてきれいに磨き上げることを第一と考えた男性はモップを前にして押しながらかけるのが最も美しくなると考えているが、現場の指示はワイパーのように横に振りながらかけなければならない、という。フロアには食堂や調理場もあり、脂っぽい床面はモップの滑りが悪い。そのため、男性は「ワイパーでかけるのは困難だし、その指示は理不尽だ」と言う。

「見せる」文化は難しい

私は男性の言い分をすべて聞いた上で、男性の「きれいにする」という目的に合致した、その行動を称賛した。「あなたは間違っていない」。男性の顔に安堵の表情が広がる。それは自分の仕事見て、言い分を正しいと言う仲間を得た安心だったのだろう。

ここから、ワイパーがけをせよ、という現場の指示の理由を一緒に考えてみた。現場が優先したのは「安全性」だ。モップが他者と接触しケガをする確率は縦に押していく場合、モップに力がかかり、視点も一点に集中するから、危機回避の能力が低下する。その結果、モップと歩行者が衝突した場合には大きな事故になる可能性がある。

試しにやってみると、ワイパーのようにかけたほうが目線をあげられるため、周囲が視界に入ってくる。この体験に男性は「そのとおりです。こちらのほうがまわりのことがわかります」と納得し、結局ワイパー掛けを受け入れることになった。

このやりとりは、障がい者雇用の現場でよく起こることである。仕事の目的を伝えても、その理由を明らかにしない場合、仕事をやる側が混乱をきたす。場合によっては孤立化し、仕事がいやになってしまう。指示した側からすれば、なんでわからないのかといら立ち、それが仕事の評価=人物の評価になり、人間関係の悪循環に入ってしまうのだ。

この会社の場合、掃除の仕事を気持ちよくしてもらうために改善したいという思いが強いから、私が全面的に一緒に仕事をすることを許可し、掃除後、担当者は「どこを改善すべきでしょうか」との姿勢だったから話は早い。私は発達障害の方の特性を理解して、「見せる」コミュニケーションを心がければ、彼は納得して仕事ができる旨を伝え、両者はまた気持ちよく仕事ができそうな雰囲気に戻った。

相手目線の配慮

「見せる」コミュニケーション、と書けば簡単であるが、上から目線で下に伝える姿勢では、うまく見せたと思っても、すっきりとした納得は得られにくい。受け手の目線で、水平の位置で「見せる」ことではじめて、信頼関係を結ぶ素地の上での納得を得られるから、実際には難しい。

日本の企業文化は多くがヒエラルキーで上意下達の構造だから、仕事のやり方を教えても、その理由を伝えないことも多い。さらに受け手が分からないと言って、理由の素因までたどることになれば、その対応は「面倒くさい」ことになってしまうだろう。

しかしながら、これは通常のコミュニーション文化のあり方からすれば面倒くさくなるのであって、相手目線を心がければ、それは必要なコミュニケーションとなる。他言語を話す人に意思を伝えるには、相手が分かるように、という自然な配慮が生まれるのと同じように、と考えてみてはどうだろう。

前述の企業の「配慮」は、障がいの特性に対する配慮という意味だろうが、現場に「障がいへの配慮」ほど難しく、浸透しにくいものはない。だからこそ、コミュニケーションのやり方への配慮を具体的に示したほうがより有効なのではないかと思う。

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