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コラム

3700人のでたらめと4000人の無謀
障がい者雇用で分かる中央省庁の倫理観

「おかしい」の直感

 約1年前、古巣の新聞社の記者やデスクら複数の同僚が集まった飲み会の席で、障がい者の就労移行事業という福祉の現場にいる私に元同僚はこんな質問をしてきた。

「今なら、何の取材をする?」。

そこで即座に答えたのが「中央省庁の障がい者の法定雇用率」だった。

「絶対に雇用率を満たしていない官庁がある。外務省とか財務省とか。数字上満たしていても、何かのからくりがある」と力説した。

 障がい者の就労を推進する立場として企業や自治体などを歩き、雇う側の苦労にも対応してきた経験として、法定雇用率を満たしながら、障がい者とともに働くことは、難しい。その難しさは、障がい者が働いている現場の苦労が自然と表出することになる。

 しかし中央省庁で、それは見えなかった。この感覚から「おかしい」と思ってはみたものの、取材できる立場でもなく、元同僚には、障がいという究極のプライバシーにも触れるから取材手法が難しいことも議論した。

 時を経て、中央省庁の障がい者雇用の水増し問題は、毎日新聞のスクープから始まった。各紙も追随し、各省庁から次々に出される不正の実態。これほどまでにでたらめが横行していたとは、予想外だった。

1人の障がい者雇用に汗水を流している方々と仕事をし、私自身も1人の就労、1人の定着の積み重ねに向けてそれなりに悩み、苦労してきたことをふりかえると、裏切られた感がある。

故意性はないは疑問

 原因を検証してきた第三者委員会(委員長=松井巌・元福岡高検検事長)は中央省庁の28機関で計3700人(実数ベース)が不適切に障がい者雇用者数に算入していたとの報告書をまとめ、障害者手帳を持たない健常者の職員を恣意的な判断で「障害者」として雇用者数に算入するでたらめが横行していた実態を明らかにした。

報告書によると、国税庁では診断書や人事調書に「うつ状態」や「不安障害」と自己申告した人を「身体障害」と認定し、農林水産省では眼鏡の使用やしぐさなどから視力が悪そうな人から裸眼視力を聴いて、その結果として障がい者に算入したり、財務省ではうつ状態で病気休暇に入ったと診断書で確認できた人を算入したり、とそれはすべてでたらめであった。

 これらの算入は、障がい者雇用で通常発生する障がい者が仕事をスムーズに行うための措置や努力を伴わないから、企業が努力している法定雇用率の達成と、障がい者が働きやすくするための環境整備がいかに大変かも理解していないことなる。これでは弱者視点が実感できるはずもない。

 障がい者が社会的に働きにくくなっているのは、社会側に障壁があるという「社会モデル」の考え方に、日本もシフトしている中で、生産性を考えたい企業もその社会の実現のために努力してきたのに、中央省庁はどこ吹く風だったのである。これらの行為に良心の呵責はなかったのだろうか。これが中央省庁の倫理観なのだろう。「ばれなければいい」という心の声が聞こえそうだ。

 調査報告書は「障害者雇用への意識が低く、組織全体に対するガバナンスが著しく欠如していた」と中央省庁を非難するものの、「故意性はなかった」としている。法令に則って福祉事業をしている身からすれば中央省庁も地方自治体も法令に照らし合わせて、われわれと対話をし、仕事をしている。常にそうである。その人たちが法令を知らずにでたらめをやるはずがない。それは「故意性はない」という回答を得たに過ぎない、と解釈している。

ノウハウがないままに

 結局のところ、今回の調査結果は障がい者就労に関して中央省庁には何のノウハウも蓄積していないことも意味する。安全パイな人ばかりを集め、多くが障がい者ではない人をカウントしてきたこの10年以上の時間は障がい者就労の推進という意味では無為であった。社会が障がい者雇用という政策を障がい者の「生きがい」「働きがい」「やりがい」のためにと思って取り組んできたのに、中央官庁が足を引っ張ることになった。これほど損失なことはない。

 そして、この足の引っ張る状態は、この後も続く。

政府はそのでたらめを補うために4000人の障がい者雇用を行うとしているが、まず雇用するのは当たり前の措置だとしても、その大きな数字は、一人ひとりという個性や特性の積み重ねであることを想像しているだろうか。対処はそれぞれ違うから、障がい者雇用には細心の注意が必要だし、間違えれば、精神的なダメージのために疾患の悪化を招くし、場合によっては自殺に及ぶケースもある。

そこで初めてわかるはずなのが、現在、国が進めている就労移行事業や定着支援事業の有効性、また特別支援学校の卒業生の就労についての実態、障がい者が就労することについての受け入れ側の必要な心持、そして障がい者雇用推進にあたっての社会で必要なことの真実だ。

中央省庁は真剣に取り組んでほしい。その過程で予想外の苦労も味わいながら、障がい者とともに働きがいを模索して、はじめてノーマライゼーションが実現できるのだ。汗を流して障がい者とともに歩む中央省庁の官僚が一人でも多く出てきてほしい。

同時に内閣人事局で人事を掌握した首相官邸はこの時こそ、その誇り高きリーダーシップで主導的に障がい者雇用に取り組む姿勢を示し、実行してはいかがだろうか。

官僚の心ある行動と官邸の両親に希望を託しながら未来を考えていきたい。

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