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コラム

統合失調症の年末の不安とスティグマ
企業への理解を深めるための仲間増やし

年末年始に増幅する不安

最近の大晦日は東京・上野の東京文化会館で行われるベートーベンの交響曲第一番から第九番までを一気に聴くコンサートに行っている。そして、これも毎年のことだが、交響曲の合間の休憩時間に携帯電話を確認すると、当事者からのいくつかのショートメールが来ている。大晦日に一人の当事者は誰かとつながりたい、と思うのだろう。

そのうちの1つは12月に就労したばかりの統合失調症の方からで、会社側から年明けに話し合おうとの申し出があったとのこと。その方はこれまでの経験から「申し出がある時は解雇の通告」と思い込んでいるらしく、不安で大晦日どころではないという。

とはいえ世の中は大晦日なので私は先方の会社に確認できないから、「年明けに私も入るから大丈夫」と言うしかない。そこで不安を収めてもらいつつ、私自身もすぐに確認ができないことで不安になる。

その不安はやはり当事者自身が強く感じているのだろう。不安は年末年始の休暇という長い休みでコミュニケーションがとれない状態の中で生じ、自分が知らないうちに会社から不要だと判断されてしまう、という恐怖、そしてまた辞めさせられる、という思い込みがめぐる。

せっかく就労したのを喜び合い、楽しく正月を迎えられると笑顔でいたのはほんの数週間前の話だが、これは疾患の特性でもあるし、会社が業務をすることでその方に感じたうえでの反応は社会一般の反応であるかもしれない。

それを障がい者へのスティグマという。負の烙印などとも言われ、簡単に言うと差別・偏見。就労に関してはこのスティグマとの闘いもやっかいだ。

この闘いが年明けから始まる、とベートーベンを聴きながら気を引き締める。

SNS拡散への女子大生の訴え

昨年5月に朝日新聞の投書欄「声」に20歳の女子大学生が「『統合失調症』の動画、拡散する人へ」 が掲載された。

母親が統合失調症であり、異常と感じるその病気を受け入れるのに何年もかかったという女子大学生は「その人を大切に思い、動画を見て悲しむ人がいることに気づいてほしい」と綴った。その動画には統合失調症の方の病状である幻聴や幻覚などによる行動が映し出されているらしく、それは明らかに興味本位による投稿であったらしい。

公にするべきものとするべきではないものの基準があいまいでチェック機能も働いていないインターネット上のソーシャルメディアでは、女子大学生が指摘するような動画が「特異なもの」として発出され拡散されていく傾向にある。

このように妄想や幻覚などの症状が伴う統合失調症はネガティブなイメージとともに巷間に広まっている。

この女子大学生はソーシャルメディアで広がる偏見を伝統メディアである新聞に差別を防止してほしい思いを訴えたのであり、ソーシャルメディアが席巻している世に合っても、新聞メディアには啓もう的な役割を求めたわけだが、ソーシャルメディアにしても新聞メディアでも良心的なメディアが機能しなければこの世はノンモラルのカオスに向かうだけである。これまでの統合失調症への感覚を「自分とは別の特異な世界」から市民の中の疾患へと位置付けるコミュニケーション行動が必要なのである。

罹患率100人に1人の統合失調症は特異ではない。その中では、陽性と陰性があるし、急性期と寛解期などのタイミングもある、そして「破瓜型」「妄想型」「緊張型」の3つのタイプもある。中には引きこもる人もいるのがこの疾患だ。

特異な行動は、その症状の1つに過ぎない。

障がい者雇用支援センター設立

日本の精神科のベッド数約30万床の入院患者の8割あまりは統合失調症の患者(岩波明『精神疾患』(角川文庫2018年)であり、代表的かつ最も重要な精神疾患である。この疾患を社会がどのように受け入れていくかが、われわれの社会のノーマライゼーション実現のバロメーターになるはず。

拡散されるスティグマにどのように対抗できるのだろうか。私が大仰なことはできないが、まずは目の前の事象にコミュニケーションを尽くして、対応するしかない。まずは、年明けの、冒頭にショートメールをいただいた方の職場との対話から今年の「闘い」は始まる。

私自身も障害者の就労に関わる中で、企業内での障害者就労への理解を進めるための仕組みづくりや、仲間づくり、そのコミュニティ化を進めようと、「障がい者雇用支援センター」を立ち上げて、全国規模で資格学習を展開する「LEC東京リーガルマインド」とともに運用することになった。主に社会保険労務士に障がい者雇用を推進してもらおうと、社労士に福祉に関する基礎教養を身に着けてもらう「障がい害雇用推進者研修」を受講してもらい、受講後は「障がい者雇用サポーター」として活躍してもらう構想だ。

スティグマは無知から始まる、ことを考えての一手である。障がい者や福祉について知り、そして実際に交わる。企業内にも理解者を増やし、理解から次の行動が自発的に生まれるときにはスティグマは解消されているはずだ。

ベートーベンが難聴だったことは知られているが、それ以外にも性格的に問題はあったし、現在生きていたら各種の診断名があるほど個性的だ。その彼の遺した音楽は、力強く人類を鼓舞し続けている。私はそれを当事者の希望なのだと感じている。

本年もよろしくお願いいたします。

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