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コラム

精神疾患者の「ココロ」の詩に絶望と希望を見る
言葉にすることの可能性と歌曲で「思い」広げたい

失意のどん底

昨年から今年にかけて精神疾患者をはじめとする疾患や障がいで生きづらさを感じている方からの「ココロの詩」を募集し、その審査委員長を務め、ようやく最優秀作品が決まった。作品は私が編集長を務める「季刊ケアメディア」や共催する「月刊歌の手帖」で来月発表するが、切実な思いが込められた詩作は読み進めるにはかなりのハードな仕事で、1行の表現やずしりと重量感のある言葉が心を捉え、その先動けなくなる瞬間もあった。

疾患であることの絶望から、ちょっとした出来事で希望に転じる詩もあれば、失意のどん底に打ち捨てられたようになったままのものもある。自分を責める人もいれば、社会をなじるものもある。

しかし、言葉に表現することは、自分自身や身の回り現象を達観することでもあり、結果的に普遍的で力強いメッセージへとつながっていく気がしている。言葉やコミュニケーションを通じて疾患者の支援をすることに取り組んでいる中で、やはり詩を書く行為は、自分の精神疾患を見つめるのにはよい行為のかもしれない、と実感する。

ライフストーリーの重さ

今回の「ココロの詩」は第一回目で歌に関する月刊誌「歌の手帖」とレコード会社「エイフォース・エンタテイメント社」と実行委員会を組織し行った。

最優秀作品は作曲家が曲をつけ、プロの歌手が歌う作品としてメジャー発売するCDにすることになっており、作品の詩は「曲になる」ことを意識した審査となった。

昨年秋から今年1月まで作品は郵送やメールで応募され、詩はもちろん、それぞれが抱える疾病名やライフストーリーも任意で書いてもらった。任意にしているので、審査過程には影響を与えないことにしており、評価は詩作品そのもののみを対象としたが、詩の評価が終了した後で読んだライフストーリーの内容はどれも考えさせられるものばかりだった。

家族との離別や、幼いころからのドメスティック・バイオレンス、犯罪集団との関わりや少年院での出来事、反社会勢力のメンバーだったこと、強制入院の記憶―。

人にはこれほどまでドラマがあるのかと思ってしまう。

支援の仕事をしている身としては、それらの文面にある現実としてある困難や障がいが何とか除去できないものか、と反応しながらも、結果として生み出された「詩」という言葉に、改善の可能性を見出し、一人で絶望と悦の繰り返す日々だった。

福祉施設の雰囲気も重要

そこであらためて、「詩を書く」という作業に希望を見出している。この企画の当初、いくつかの福祉施設から精神疾患者や知的障がい・学習障がいの方への「詩の書き方」のレクチャーをお願いされ、私が出向き、話したのは「思いを書いて、願いを繰り返す」ことから始めるというシンプルなやりかただった。

今、この瞬間感じたこと、思ったことをそのまま文字にしてみる、その結果、なりたい自分やこうあってほしい現実を文字に「描き、繰り返す」との説明である。

例えば、朝起きて感じたこと、食べたごはん、顔を洗ったこと、家を出た瞬間の風景、通所中の道行く人の表情をつらつらと連ねて、昼間になって願いとして「ごはん食べたい」「ごはん食べたい」「ごはん食べたい」と綴るだけでも、素晴らしい作品になるから面白い。一歩踏み込めば「カレーが食べたい」も出てくる。そうなれば味わいのある作品に仕上がってくる。

こんなレクチャーをして気づくのは、言葉を素直に描けることは、場の安心感が必然であること。自由に表現できることはすなわちストレスがないこと。つまり、その福祉施設の雰囲気も重要となってくる。

精神疾患派に向けて

だから、この作業には、さまざまな疾患や生きづらさを抱えながらも、発言や表現が自由であることが、よい作品を生み出す前提としてある。

1950年~60年代に米国で活躍した大詩人たちはニューヨーク派、ブラック・マウンテン派、ビート・ジェネレーションと呼ばれ、新しい言葉のリズムとその可能性を提示したが、それらの言葉が世に発出できたのは、言葉を自由に操ってよい環境があってこそで、半世紀を経た日本で感じるのは、精神疾患をはじめとする人たちの生きづらさの視点からの新しい言葉の連なりは、本来持つべき詩としての機能の中でまだまだ発揮できる領域のような気がしている。

いうなれば、日本の新しい言葉の表現を探究する「精神疾患派」でもよい。胸を張って言葉を紡いでほしい、と思いながらも、それには「自由に思いを綴れる環境」が必要。この場を社会にどのように作っていくのか、これは社会の課題である。

こんな思いに至った私や主催者側は、「ココロの詩」の募集を毎年行い、歌として世の中に、そのココロを発出していこうという考えで一致している。

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