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コラム

障がい者雇用で露呈する会社の「コトバ」は文化が作るから
支援者と企業の融合でコミュニケーションの質を高めたい

虚しい無理解

「会社はボランティアではやれませんから」。

またこの言葉か、と思いつつ受け止める。「そんなの分かっている」という言葉を飲み込みつつ、先方も苦悩の末に出た言葉であると肯定的に受け止めるが、やはりその無理解が露呈した言葉に虚しさを感じる。

障がい者を一般企業の「障がい者雇用」での採用を目指して支援している者として、企業とコミュニケーションを交わしていると、その発せられたコトバから企業の文化が見えてくる。障がい者雇用という新しい流れに、新しい価値観で対応しているのか、「面倒くさい」と臨むのか、何気ない言葉でもその会社の文化を物語ってしまうことになるから、企業は注意が必要だろう。とはいえ、付け刃的に対応できるものではないのがこの障がい者雇用分野であろう。

知的障がいをはじめ複数の障がいがあり長年就職活動続けながらも採用にこぎつけないある40代の男性が、先日やっとのことで都内の中規模製造業の企業の内定を得た。私も面接に同行し、先方の工場長は「障がい者雇用は初めてだから」としつつ挑戦してみることになった。その男性と私は歓喜しつつも、男性の障がい特性として新しい環境への不安や、説明が分からなくなると何もできなくなったりするから、初日を何とか乗り切り、特性を知ってもらいながら定着させていこうと考え、就業初日に向けて何度も「分からなかったら、聞く」などのアドバイスを繰り返した。

2つの言葉

そして臨んだ初日。結果、採用担当者から夕方に言われた言葉が、「会社がボランティアではできない」だった。つまり、生産性を重視する会社では雇えない、との結論である。男性も私も残念な思いに打ちひしがれたが、すぐにほかの大手企業の特例子会社から採用に向けての実習が決まり、同じような特訓をして臨んだ。

しかし3日の予定ではあった実習の初日。担当者から採用は難しいとの結果に至った。その時の説明は「すみません。私どもで対応できる能力がありません」だった。前者の企業の言葉は、経験不足も考慮しても、障がい者を理解しようとしない排除の心理が現れており、時代遅れの一言。後者の特例子会社は「何とかしない」というニュアンスも伝えられ、理解しようという姿勢がにじみ出ていた。

このように障がい者雇用をめぐる「コトバ」を数多く聞いていると、そこににじみ出た会社の文化に会社の価値も連動してきそうだ。時代の流れを捉えつつ、正しい言葉を紡ぐ会社の文化であってほしいと思う。文化はその醸成された環境や習慣が蓄積された結果、知らずのうちに出来上がったアイデンティティのようなもの、会社の歴史ともいえる。

法定雇用率に従い、一定規模の企業には障がい者を雇用しなければいけない状況は最近のこと。歴史の長い会社にとっては長年の文化とどう融合していくかも問われている。

大企業が特例子会社を作り、障がい者雇用を推進することにやりがいを見出して、特例子会社の管理職やスタッフになる人は、会社の中で新しい文化を作るやりがいからか、いきいきした言葉で、当事者を想い、そして行動している。

先ほどの話で言えば、後者のタイプである。実習前にも、採用できる基準として技術的なことではなく、コミュニケーションと他者との親和性であると明確にしていたので、実習の結果も誠実なコトバで評価してくれた。

福祉領域との融合を

一方で大企業の特例子会社の管理職には、定年後の再雇用や「上がりポスト」で腰掛ける人もいるようで、そのような人は言動で一目瞭然だ。合同面接会に行けば、対応で分かる。それは、私ではなく、敏感な精神障がい者が感じていることだ。

さて、そのような企業側のコミュニケーションの質を高めるにはやはり福祉現場との融合は欠かせないだろう。

支援の仕事のうち精神疾患者向けの就労移行の支援者は、言葉によって当事者の気持ちを左右するから、言葉に敏感である。自分の言葉が当事者にどのような影響があるかを考え、そしてその言葉が嘘であってはならないから、慎重かつ丁寧に言葉を紡ぐ。かといって、何とか働きたいと思いを受け止めての支援だから、その言葉は有機的な響きを持つもの、夢と希望が見えるものにもしなければならない。

そのような文化が違う支援者と障がい者雇用を担当する企業の担当者が交じり合うことで、コミュニケーションの質は上がる。強靭な足腰を持つ文化に成長するはずで、それを入り口に会社の文化は変わり、素敵なコトバが出てくるはずだ。

それは結局、障がい者雇用の質を上げることにつながるのだと思う。

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